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17社のM&Aで地方を元気に!隣接多角化により大躍進させた統合戦略

前田工繊株式会社 代表取締役社長 兼 COO 前田 尚宏

製造業

2025.11.20

次なる成長への一手をお考えの経営者の皆様へ

この度、事業成長の手段としてM&Aという手法を取り、シナジー戦略も発揮させながら事業の多角化と規模拡大に成功した事例をご紹介します。

本記事では、北陸・福井に拠点を置き、M&Aで17社を統合させながら、全国、そして世界へと事業を展開している前田工繊株式会社の戦略に焦点を当てます。

1972年の設立以来、土木資材メーカーとして培ってきた繊維加工技術を基盤に、M&Aを成長の強力なエンジンとして積極的に活用し、東証プライム上場企業として事業領域を多様に広げています。グループに加わった企業の力を最大限に引き出す「統合力」こそが前田工繊の強みであり、持続的な発展を実現しています。

当サイトでは、地域企業の事業拡大や地域経済への貢献に向けた具体的なヒントを得ていただくことを目的として、前田工繊の歩み、特にM&Aに取り組む上で大切にしてきた考え方について、前田社長にお話しいただきました。ぜひ皆様の次の挑戦にお役立てください。

社会課題の解決こそ、前田工繊のパーパス(存在意義)

当社は、日本のインフラを支える土木資材メーカーとして、幅広い品揃えと高い技術力、そして提案型営業を強みとしてきました。既存製品の改善や改良にとどまらず、M&Aによって事業領域の異なる製品を組み合わせ、「イノベーション」を起こしている点は、私自身もとても誇りに思っています。

前田工繊のパーパス(存在意義)として掲げているのは、以下の3点です。

  1. 地方の企業が地方を元気にすること。
  2. 世の中の課題をモノづくりで解決すること。
  3. ESG+H(Human=人を育てること、人への投資)。

M&Aを進めるときも、このパーパスに沿う事業展開が望める企業様を探しています。

例えば、農業分野のグループ企業である「未来のアグリ」では、現在問題となっているクマ対策に寄与する製品を開発しています。カプサイシンのスプレーと電気柵、クマ檻の3点をセットで提供し、社会課題の解決に貢献しているのです。

また、2013年にグループに迎えた鍛造ホイールメーカーの「BBSジャパン」は、世界のモータースポーツを支えてきた企業で、F1の統一規格ホイールにも採用されています。鍛造ホイールは鋳造に比べて軽く強度が高いため、EVやハイブリッド車のように車体が重くなる電動車にとって大きなメリットがあります。BBSのブランド・技術に私どもの製造、投資のノウハウが融合することで、未来のモビリティに貢献できると確信しています。

「未来のアグリ」では、最近注目を集める獣害対策として、対象動物に合わせたさまざまな柵や罠を扱い、人と動物の共存の実現を目指している。
「BBSジャパン」は、2022年シーズンからBBS鍛造ホイールをF1全チームに供給中。その品質の高さは、世界が認めている。

前田工繊の行動指針:「真・善・美」が企業を強くする

行動指針として「真善美」の実現を掲げています。

  • 「真」は真実、つまり経営数値を全社員で共有することを指します。
  • 「善」は、「自責文化」を育てること。例えば、失敗を他人のせいにしないことです。部署を超えてお互いの仕事を体験し理解することにより、不満をなくすジョブトライアル制度も導入しました。
  • 「美」は働く環境の整備です。工場や休憩室をきれいにし、設備投資を惜しまないことで品質への意識と誇りを高めています。実例として、BBSジャパンはM&Aによって30億円の売上から250億円に成長しましたが、その背景には200億円以上の設備投資と環境整備があります。
行動指針として「真・善・美」をあらゆる場所に掲示し、共有している。

事業を飛躍させた「隣接多角化」

2002年から現在まで17社とのM&Aを実施しています。そのきっかけをひと言で表せば、それは「危機感」です。

私が2002年に前田工繊に入社した当時、主要事業である公共事業の減少に直面し、事業の多角化は必須でした。上場も本格的に検討していたため、スピード感をもって危機を回避するにはM&Aが必要だと判断したのです。

その折、従来からのお取引先であったオイルフェンスを扱う企業様から、後継者がいないということで、事業承継のお話をいただきました。これまで、当社が資材を納めていた、港湾や河川に強い会社です。行政単位で言えば、私どもが「建設」のセクターなら、同社はその隣にある港湾や河川のセクターに属しています。お互いの顧客層が重なっていたため、直感的に「これはうまくいく」と思いました。M&A後は、想定通り、私どもの全国営業網を活用することで、この会社の製品の販売数が徐々に伸びました。

この成功体験から、公園資材や農業、水産といった、「役所のフロアでも窓口が隣接しているような分野」にターゲットを広げ、結果として、2010年頃には「前田工繊ならワンストップで企画から提案、多様な材料の調達と、分野をまたいだ製品開発、そして社会実装までできる」という認識が広がり、「土木資材のデパートのようだ」と言われるようになりました。同時に、金融機関からM&Aの様々な企業のご紹介も増えていきました。

即断即決と第三者の活用がM&A成功の鍵

2015年に私がCOOになったときには、「グループ経営企画室」を立ち上げ、M&Aを一気通貫で行う専門部隊を組織化しました。年間300件から400件の情報を精査し、ソーシング(※1)からDD(※2)、PMI(※3)まで一気通貫で行っています。

M&Aを行う際の基準は大きく2つあります。

  • 新規事業の分野であること

または

  • 既存事業の隣接分野で、将来性があり、私どものリソースで利益の改善が可能であること

当社のスタイルとして、経営陣全員がM&Aに責任を持っているため、相手企業の責任者とペアを組み、現場で議論し即決します。変化の激しい現代は、意志決定にもスピードが重要です。

また、買収価格の交渉の際には、社長同士で交渉するよりも、金融機関などの信頼できる第三者に仲介をお願いすることが、M&Aの成功のカギだと考えています。

(※1)ソーシング(sourcing)
M&Aにおいてターゲット企業を選定し、さらにターゲット企業との交渉を行うこと。
(※2)DD
ューデリジェンス(Due Diligence)の略で、M&Aにおいてターゲット企業の価値やリスクを詳しく調査・分析するプロセスのこと。
(※3)PMI
スト・マージャー・インテグレーション(Post Merger Integration) の略で、M&A成立後に行われる統合プロセスのこと。

福井本社社屋の一角に設けられた前田工繊グループの企業が開発・製造する製品のショールーム。多彩な分野において、社会課題の解決に寄与していることがわかる。

統合後に化ける!エンゲージメントを高める「3つの混ぜるイノベーション」

M&Aを行う上で私が最も大切にしているのは、統合後に相手の企業様にどう成長してもらうか、いかにエンゲージメントを高め、「前田工繊と一緒になってよかった」と思ってもらえるか、ということです。そのために、私を含め、親会社となる前田工繊のCXO(開発本部長や製造本部長など)が定期的に現地へ足を運び、全グループ会社の開発状況や工場の様子を把握しています。そうすることで、新たな開発につながったり、工場の繁閑差を無くしたりすることができています。

また、PMIの際には、M&A企業との3つの「混ぜるイノベーション」を大切にしています。

  1. 「技術を混ぜる」:当社の抗菌不繊布技術とM&A先企業の縫製技術を掛け合わせ、避難所で活用できる間仕切テントを開発した事例などがあります。
  2. 「製造工程を混ぜる」:全国のM&A先企業の工場で製造を分散し、工場の稼働率安定化と経費削減につなげています。また、前田工繊の社員がほかの工場へ応援に行くことで、多能工化も進みます。
  3. 「人を混ぜる」:グループ内の各工場の知恵を共有し、改善につなげる取り組みを実施しています。年に2回、グループ全社より製造部門の社員が集まり「製造改善発表会」を開催しています。また、全国に散らばるセールスエンジニアのネットワークを活かし、全国への販売展開を行っています。なお、東京本社では、グループ各社の社員がワンフロアで働くという環境にし情報交換を活発化させています。

この「混ぜるイノベーション」により、小さな成功体験を積み上げ、信頼を築いています。また、少しずつエンゲージメントを高めた先にさまざまなシナジーが生まれ、企業の成長につながるのだと思います。

M&Aとはお互いのプレゼンスを高める「結婚」のようなもの

M&Aとは、お互いのプレゼンスを高める「結婚」のようなものだと捉えています。

新しく仲間に加わる企業の社員も含め、会社自体や社員自身のプレゼンス(存在感)を高めるために、「MAEDA AWARD」という表彰制度や、頑張った人に報いる透明・公平性を重視した評価制度を設けています。

私は「厳しくも温かい会社」をつくることを信条にしています。「結婚」後の成長を確実なものにするため、私が社長として決定することは、人事、値決め、投資だけと考えています。毎年5%成長をみんなで目指し、賃上げも実施するなど、数字を明確に示しながら社員とともに成長する体制を整えています。

私たちのM&Aが上手くいっている最大の要因は、「買収した会社を売却しない点、つまり結婚した相手を手放さない点」が、評価されているからです。

また、2007年に東証二部へ上場し、現在は東証プライム市場に移っていますが、上場したことがM&Aを進める上での信頼性を大きく高めたと思っています。

ワクワクできる仕事をつくり、「結婚」生活をより豊かなものにするため、社員の意欲を引き出したい。また、効率の悪い転勤をなくし、地元で長く働ける体制を構築することで、地域貢献にもつなげたいと考えています。

若い世代の社員も多数在籍。女性も多く、早くから裁量をもって活躍できる環境が若手社員の着実な成長を後押ししている。

地方から世界へ広がる未来図

M&Aに興味を持つ企業へのアドバイスとしては、まず「本当に成長したいのか」を先に考えることです。

そのうえで、現業で手が回らない場合は、地元の銀行の力を借りて専門の人材と進めるとよいでしょう。地方銀行も新たな資金需要が生まれるので、成長した会社には融資も広がるはずです。

M&Aを通じた地域貢献は、雇用や設備投資という形で表れます。今後も、雇用継続・採用や賃金アップ、M&A先企業の地元にある設備メーカーから機械を購入することで、地域経済に還元したいと思っています。

また、現在10都道県でM&Aを行っていますが、国内47都道府県でパートナーを見つけ、将来的には世界の地方都市と連携することを目指します。すでにベトナムに工場を設立し、海外人材の確保も進めています。日本の地方企業が、世界の地方都市を活性化できたらおもしろいなと思っています。私どもの挑戦に、ぜひご期待ください。

地域で成長を目指す企業の皆様へ

M&Aによる「隣接多角化」で大躍進を遂げた前田工繊の戦略は、地域で成長を目指す企業の皆様にとって、新たな視点を与えてくれるものとなるはずです。特に前田社長の「本当に成長したいのか、現状維持でいいのか」という問いは、次なる一手へのヒントとなるとでしょう。

本サイトでは、市内で成長を目指す企業の取り組みだけでなく、域外で地域の中核を担っているロールモデルとなる企業の取り組みについても発信しております。この記事が、皆様の飛躍に向けた具体的な行動を起こすきっかけとなれば幸いです。

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企業情報

前田工繊株式会社

土木資材をはじめ防災・環境関連資材の製造・販売、M&Aによる新規事業の拡大、海外子会社を含むグループ展開など多角的な事業の推進
業種
製造業
住所
福井県坂井市春江町沖布目38-3
TEL
0776-51-3535(代表)
HP

キーワード: 製造業

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