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地方から世界へ。未来を切り拓く企業の挑戦

-令和7年11月18日開催『SENDAI CORE COMPANYシンポジウム』レポート

2025.12.22

今年も、地域中核企業を目指す企業が成長のヒントを探る『SENDAI CORE COMPANYシンポジウム』がエルパーク仙台で開催されました。会場には、市内企業や支援者など約100名が集結し、地方発の成長戦略を共有する場として熱気に包まれました。

第一部では、秋田から世界市場へ飛躍するOrbray(オーブレー)株式会社 代表取締役社長・並木里也子氏が登壇。「人・組織・ブランドの視点から~地方だからこそ描ける成長戦略~」をテーマに、理念と技術を融合させた挑戦の軌跡を語りました。

続く第二部では、令和7年仙台市地域中核輩出集中支援事業に選ばれた5社が登壇。各社が自社の成長戦略とビジョンを共有し、課題について活発な意見交換を実施。さらに第三部のネットワーク交流会では、参加者同士が直接議論を交わし、実践的な知見を共有しました。

登壇企業(写真前列、左より)
① お茶の井ヶ田株式会社 代表取締役・井ヶ田健一氏
② 株式会社チャレンジドジャパン 代表取締役社長・白石圭太郎氏
③ 株式会社日本眼科医療センター 代表取締役・郡山知之氏
④ 株式会社パルックス 代表取締役・小松久昭氏
⑤ 株式会社B・I 代表取締役・二階堂孝宏氏

写真後列は、令和6年仙台市地域中核輩出集中支援事業の5社。左から今野印刷株式会社 代表取締役社長・橋浦隆一氏、データコム株式会社 取締役・小野寺裕貴氏、ベストパーツ株式会社 代表取締役社長・室橋勝彦氏、株式会社山一地所 代表取締役社長・渡部洋平氏、WIDEFOOD株式会社 代表取締役社長・伊藤直之氏、右は仙台市経済局長・木村賢治朗

【第一部】人・組織・ブランドの視点から~地方だからこそ描ける成長戦略~

Orbray株式会社 代表取締役社長 並木里也子氏

■社員とのコミュニケーションを深めて地域ブランディング

Orbray株式会社はダイヤモンド、サファイア、ルビーなど工業用宝石をナノレベルの加工技術で、医療、半導体、オーディオ、I o Tと多岐にわたる分野の精密機器部品として製造してきました。

創業家3代目の並木里也子氏は、「祖父の代に世界初のダイヤモンドレコード針を、父の代ではSONYウォークマン搭載の小型モーターを開発。そして今、世界最大のダイヤモンドウエハをつくり、未来の半導体材料で世界をリードしている」と語ります。

ニューヨーク生まれの東京育ち。大学時代からスノーボード選手としてワールドカップ大会を転戦したアスリートで、結婚後はロサンゼルス、香港、ローザンヌと移り住みながら子育てをしました。さまざまな文化や流行を生んだ地のパワーを得たのち、社業を継承したのは6年前。2025年春に湯沢市に移住し、自社の誇る技術を世界に発信して急成長を遂げてきました。

「社長を引き継いだころ経営状態は低迷していました」と並木氏は続けます。「私は構造改革ではなく社員の意識変容に着手しました。まずは全社員約2000人と面接してエンゲージメントを強化。困りごとは何か、どんな職場を望むかを理解し、待遇改善をはかるなど、目の前の課題を一つひとつ確実に解決したのです。今では男性の育児休暇取得率は100%。家賃補助の充実は雇用促進につながっています。」

さらに、社員食堂のリニューアルプロジェクトを推進。秋田杉を活かした地元木工企業とのコラボや、鳥海山を望みながらレコードを聴けるカフェスタイルの空間を創出。従業員にとって心地良い空間を生み出すことで仕事の効率向上につながっています。「環境が人を変えるのです。田んぼの中という環境だからこそ可能な地方ブランディングです」と並木氏は強調します。

■「一社如一家」の理念と世界最先端の技術の融合

2023年には社名を「アダマンド並木精密宝石」から「Orbray」へ変更。「orb」は天体や地球、「ray」は光。命の源である地球から生まれた素材を磨き、そこから光を生み出す。新しい社名には、祖業の技術と未来への飛躍という強い想いが込められています。もちろん、長年親しまれた社名を惜しむ声もありました。しかし並木氏は社員と徹底的に語り合い、理解を得ながら変革を進めたのです。

社員を重視する背景には、創業者である祖父が秋田県知事から贈られた言葉「一社如一家(いっしゃいっかのごとし)」があります。「宝石加工技術者として東京で町工場を興した祖父は、1967年に湯沢市の企業誘致第一号として生産拠点を移しました。工業用宝石加工を地場産業にという気概で、あえて最も条件の厳しい土地を選んだのです。競合がいない分、雇用創出のチャンスがあり、新しい挑戦は注目を集めやすい。そして何より、秋田の人々には粘り強い雪国気質と、AIにはない豊かな感性があります」と並木氏は語ります。

理念「ものづくりは人づくり」を体現するため、教育研修部を設立し「オーブレーアカデミー」を開講。新人研修では社会人としての素養を徹底的に磨き、仲間意識を醸成することで離職率は大幅に低減しました。さらに、女性向けのアクセサリープロジェクトやリーダー養成プロジェクトを展開するほか、スキースクールや植林活動といった地域貢献活動も継続してきました。

「秋田県は人口減少率全国一、女性管理職の人数は東北最下位。そんな厳しい課題が山積する秋田県を変革できれば、世界を変えられます。2026年3月には湯沢市に新本社を移転し、IPO(新規株式公開)も目指しています。匠の技を次なる100年につなげたい」並木氏の言葉には、地方発のグローバル企業を目指す強い決意が込められています。「一社如一家」というソフトと「世界最先端の技術」というハードの両輪で、持続可能な雇用を生み出す挑戦は続きます。

並木氏の講演後、会場からの質疑応答に続き、中小企業庁経営支援課より経済政策の一環である「100億宣言」と「中小企業成長加速化補助金」に関する説明がありました。

「100億宣言」とは文字通り、「売上高100億円」という野心的目標とその実現に向けた成長戦略を公表すること。宣言を取得した企業は、大胆な設備投資を支援する「中小企業成長加速化補助金」の申請や経営者ネットワークへの参加などが可能となります。令和7年5月に開始されたこのワンセットの政策には、全国の2000社以上が申請。その25%が売上高14億円から20億円未満の企業だといいます。

中小企業庁ではこれらの経済効果を約120兆円、つまりGDPの約8%と見込みます。採択事業社の成長要因やフォローアップ体制などは精緻な分析を待つところですが、中長期的には金融機関による資金供給の円滑化や支援機関による成長ソフトの提供など、官民による継続支援が重要となります。

【第二部】パネルディスカッション

登壇したのは、昨年度の5社に続き新たに選ばれた第2期生の5社。共通の目標は、年商100億円を達成し、地域に社会的・経済的インパクトをもたらすこと。モデレーターには株式会社カナデル代表取締役・小泉京子氏を迎え、会場は熱気に包まれました。

ディスカッションは、各社の自己紹介から始まり、今後の成長戦略、そして人材・組織づくりに関する発表へと進展。「地方企業がいかにして持続的成長を遂げ、そのために人と組織をどう磨くか」。その問いに対する答えを探るべく、活発な意見交換が繰り広げられました。

■お茶の井ヶ田株式会社 代表取締役・井ヶ田健一氏

1920年に茶舗として創業した老舗企業。井ヶ田健一氏は「30年前に抹茶ソフトクリームを販売したことが転機でした」と振り返ります。

この挑戦を機に、同社は和スイーツに注力。さらに10年前には仙台市太白区に複合施設「秋保ヴィレッジ アグリエの森」を開業し、観光と食の融合による新たな価値を創出しました。

現在、売上の約75%を占める菓子類には、まだ大きな成長余地があります。「秋保に新たな大福系菓子工場を新設しました。また、従来の大町工場はずんだシェイクのパウチタイプ製造に特化し、生産性をアップ。次のステージに向けて、成長戦略の柱は明確です」と語り、①関東圏への店舗展開、ことに東京駅構内での常設店舗開店、②白石市の道の駅での物産館型ビジネス、③全国の地方紙への広告出稿による通販拡大および新規顧客獲得を掲げました。昨年は「仙台市中核人材養成プログラム」を活用し、次代のリーダー育成にも積極的です。

「伝統を守りながらも、積極的に市場を開拓する。それが私たちの使命です」。井ヶ田氏の言葉には、老舗の誇りと未来への挑戦が込められています。

■株式会社チャレンジドジャパン 代表取締役社長・白石圭太郎氏

「2008年、障害などにより『働きづらさ』を抱える方の就労支援を目的に創業しました」と白石圭太郎氏は語ります。同社は全国初の試みとして、従来の就労継続支援B型事業所を、直接雇用する一般事業所へ転換するモデルを構築しました。

「障害者雇用の概念を“支援”から“戦力”へ進化させる。それを使命として取り組んできました」と白石氏は強調します。

成長戦略の基盤は、①公費による就労支援事業、②企業側への雇用支援、そして③直接雇用の推進という三本柱。これらが相互に補完し合い、100億円企業への道を切り拓きます。

「障害者雇用は、人手不足解消の糸口であり、それはそのまま社会課題解決の鍵となります。就労可能な人材を増やし、企業がその人材を的確に雇用するしくみをつくることが重要です。いずれは公費依存から脱却し、持続可能なビジネスモデルを構築します。地方自治体や企業のコンサルティング事業という意識を継続し、ひいてはすべての人の就労支援をめざしたいと考えています」。その決意は、雇用の未来を変える真摯な姿勢と深い思いに裏付けられています。

■株式会社日本眼科医療センター代表取締役・郡山知之氏

「半世紀にわたり、眼科医療機器の販売とアフターメンテナンスを担ってきました。医療機器メーカーは首都圏に集中していますが、弊社のようなメンテナンス技術を持つ企業は非常に少ないのです」。自社の特徴を郡山知之氏はこう説明します。

その歴史ある企業が、悲願としてきたオリジナルブランド機器の研究開発に参画し、目の健康チェックを支援する民生機器『MEOCHECK NEO』の販売代理店となったことは、大きな転換点でした。「この取り組みをきっかけに、社員のモチベーションは飛躍的に向上しました」と郡山氏。医療機器メーカーのレーザー技術、東北大学の先進の調査・研究、そして日本眼科医療センターの現場からの知見が、この画期的な産学共創を実現したのです。

成長戦略は二本柱です。
①既存の販売・メンテナンス事業を強化し、現在の部門売上58億円から70億円への拡大を目指すこと。
②『MEOCHECK NEO』を軸に、企業の労務管理や人材確保など健康経営ニーズを捉えた販路拡大を推進すること。

医療と企業福祉の結節点として、企業価値を創出する新たな挑戦が始まっています。

■株式会社パルックス代表取締役・小松久昭氏

「電球・蛍光灯の販売店として創業した私たちは、常に時代の変化に応じて進化してきました」と小松久昭氏がその歩みを紹介します。

現在、同社はオフィスや商業施設の照明・空調設備の提案から施工に加え、ライトアップ事業など景観演出を手掛けるなど、“明かりで空間をデザインする企業”へと進化しました。理念は『感動空間をつくる』。成長戦略は、①人材と品質・生産性を基盤としたオーガニック成長、②先進知見の取り込みやM&Aによるナレッジ成長です。

「電気工事会社との合併により、低コスト・短納期という他社との差別化を実現します。また、ライトアップ部門も同業者と合併することで、デザイン・運用面でさらに多様性が生まれ、夜間観光の機会創出に貢献していきます」。

特筆すべきは不動産部門を立ち上げ、住環境の照明・空調設備にも事業を拡大したことです。「住まいの明かりはまちの景観を作る大切な要素。人は自宅の明かりが見えると安心しますし、くつろぎの時間も快適な照明があってのものです」と小松氏が語るとおり、住まいの照明提案を含む総合的な空間価値創出に挑んでいます。

■株式会社B・I代表取締役・二階堂孝宏氏

東北を中心に、新潟・茨城までをカバーする広域物流ネットワークを展開する株式会社B・I。倉庫業務から配送まで、そして常温から冷凍まで一貫したサービスを提供し、品質重視の姿勢で顧客から厚い信頼を得ています。

来期の売上は50億円を見込み、さらに2034年には100億円達成という大きな目標を掲げています。「社員のモチベーションを高めるためには、労働環境の底上げと社員の幸福度向上が不可欠です。スピード感をもって取り組んでいきたい」と二階堂孝宏氏は強調します。「物流業界は人材のスキルと経験が品質に直結する労働集約型産業。効率化を求めるだけでは丁寧さが失われ、品質も低下します。弊社の品質とは安全のことであり、社員一人ひとりの幸福です」。

成長戦略は、①M&Aによる事業規模拡大、②多角化による新領域への進出。

営業力の強化と人材確保も積極的に進めます。自社の魅力をよりアピールする手法で求人を行ったところ、応募が従来の5倍に増えました。また、ドライバーのセカンドキャリアの選択肢を示すなど、働く人の未来にも目を向けていることも大きな特徴です。

5社に共通する課題としては、採用と人材育成があがりました。これを受け、最後は昨年度の支援企業5社のうち3社から現場での実践知に基づくコメント、例えば「飛躍的成長をとげるには社内での検討だけでは不十分。外部専門家の助言を取り入れることで社内での考えが深まり、人材育成の面でも好影響があるはず」という意見が語られました。

さらに並木里也子氏より、「仙台は東北のリーディングシティ。ぜひ東京ではなく海外をダイレクトに目指し、2倍、3倍の利益を上げていただきたい。まずは、目標を定めたら言葉にして言い続けること。それによって社員の姿勢や周囲の反応が確実に変わってきます」とのエールをいただきました。

第二部の締めくくりとして、仙台市地域中核輩出集中支援事業の選定委員である藤本雅彦東北大学名誉教授からコメントがありました。人材育成や組織マネジメントの専門家である藤本名誉教授は、東北大学大学院経済学研究科地域イノベーションスクール長も務めています。

「並木氏が語るように、地方だからこそ、ある企業の魅力はひときわ目立ちやすいもの。飛躍的な成長には優秀な人材の確保が不可欠ですが、採用面ではむしろ地方の企業の方が有利かもしれません。また、選ばれやすく、支援を受けるチャンスが多い、さまざまな補助金も活用しやすいというメリットがあります。会場のみなさんも地域中核企業をめざし、ぜひ大きなチャレンジをしてほしい」と結びました。

【第三部】ネットワーク交流会

シンポジウムの締めくくりは、隣接ホールで開催されたネットワーク交流会。登壇者と参加者が10のテーブルに分かれ、「自社の成長戦略」「人材育成のための組織づくり」という二つのテーマを軸に、30分のテーマトークと30分のフリートークを展開しました。各テーブルでは、現場のリアルな課題と本音が飛び交います。

「売上100億円を本気で達成するにはM&Aは不可欠」
「企業としての理念や成長戦略は現場への浸透に時間がかかる。それが経営者として悩ましい」
「業種を超えたネットワークを築きたい」

和やかな雰囲気の中にも、参加者の表情には真剣さが宿ります。地域中核企業に向け、大きなステップを踏み出した企業の生の声を聞き漏らすまいと、議論に耳を傾ける姿が印象的でした。

本シンポジウムを通じ、並木氏や登壇した企業から紹介された取り組みは、参加者のさらなる成長意欲を搔き立てるとともに、新たなネットワーク構築とそれぞれの戦略のヒントを探る場となりました。

今回の議論で共有された知見や戦略は、地域企業が持続的な成長を遂げるための大きなヒントとなるはずです。本イベントに参加した企業の中から、地域経済を牽引する存在が多数生まれることが期待されます。

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