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離職率約1%の奇跡! 人を育てる「ひろば経営」で全員主役の会社に

株式会社関ケ原製作所 代表取締役社長 矢橋英明

製造業 人材 職場環境の整備

2025.12.25

【人材育成に課題を感じている経営者の皆様へ】

今回は、人材育成に力を入れ、離職率1%という驚異的な企業の事例をご紹介します。

天下分け目の戦いの舞台、岐阜県関ケ原。その古戦場跡の中心に本社を構える関ケ原製作所は、ニッチ領域に特化し、国内トップシェアを誇る製品を数多く手がける、匠の技を強みとする企業です。その技術力を基盤に、開発・設計から製造、据え付け、アフターサービスまで一貫して担っています。

高度な技術を次世代へと継承するため、同社が実践しているのが、人を育て、環境を整える「ひろば経営」。人材育成と技術伝承を柱に据え、社員が誇りを持って働ける職場づくりを進めています。

今回は、ニッチ市場での事業展開から人材育成、理念の浸透に至るまで、関ケ原製作所の歩みを矢橋社長に語っていただきました。ぜひ皆様の課題解決にお役立てください。

売上を追うよりも「人が育つ」会社に

関ケ原製作所の製品は、大手企業が手がけず、中小企業では製造するのが難しいニッチ領域のものばかりです。油圧機器、商船機器、舶用特機、大型製品、鉄道機器、精密製品、軸受製品の7事業を展開し、開発からアフターサービスまで、一貫したものづくりを行っています。国内トップシェアを誇るものや海外向け製品もありますが、無理な拡大をしようとは思いません。売上よりも「高付加価値」と「人づくり」を重視し、社員が成長できる会社を目指しています。

関ケ原製作所が掲げる理念は「限りなく人間ひろばを求めて」。創業者・矢橋五郎が抱いていた「会社はみんなのもの」という精神を礎に、働く人がやりがいを感じる場であるべきだという想いから生まれました。

幾度もの経営危機を経て、利益追求よりも、社員がやりがいを持って働き、成長を促せる場づくりが重要という風土が生まれたのです。2代目社長の際に、社員が楽しく働ける環境づくりに着手し、現在では約15万平方メートルの敷地にアート作品が点在する広大な芝生広場や、カフェ、美術館を整備しています。

私たちは、人生で多くの時間を過ごす会社を「明るく楽しく過ごせる生活空間」、仕事を「人生を豊かにするやりがいや生きがい」と捉え、ひろば経営に注力してきました。利益を追わず、環境づくりや人づくりに力を注ぐのは理想論に聞こえるかもしれませんが、社員一人一人がやりがいを持って働くことこそが、高い付加価値を持った、唯一無二のものづくりが実現できると信じています。

庭のアートを見ながら休憩できる社員食堂。安さ・栄養バランス・ボリュームにこだわったメニューには社員の満足度も高い。
敷地内にある社宅。アートが点在する庭を眺められ、リラックスできる住環境。
敷地内には一般の方が利用できる「未来食堂」も。取材時、平日にも関わらず多くのお客さんで賑わっていた。

離職率25%の現場を変えた!「ひろば経営51%:事業経営49%」誕生の原点

私が、社長就任当初、理念の浸透が不十分と感じ、「ひろば経営51%、事業経営49%」という方針を掲げました。その背景には、中国にある合弁会社での経験があります。

中国に向かったとき、私は片道切符のつもりで海を渡りました。2代目社長の後継を期待されて入社したものの、その期待に応えられなかったからです。前職である商社での価値観を引きずり、「利益追求」の意識が抜けきれず、言葉では「ひろば経営」の大切さを理解しているつもりでも、実践に移すことができなかったのです。

しかし、中国で私の意識は大きく変わりました。現地の合弁会社で目の当たりにしたのは、激しい利益追求型の経営と、離職率25%超という状況でした。関ケ原製作所の理念とはかけ離れた状況に私は憤りを覚え、中国で「ひろば経営」の実践を決意しました。社員一人一人を大切にし、運動会や社員旅行などを企画して社員とのつながりを深めたところ、社内の雰囲気は大きく変わり、離職率も徐々に下げることができたのです。さらに、独資に切り替える際、ほとんどの社員が会社に残ってくれました。

この経験を通じ、私は心から人のつながりの大切さを知り、同時に、一人ではなく、チームで協力して喜びを分かち合うことが、経営で最も大事なことだと気づきました。

帰国後、社長に就任した私は、関ケ原製作所の理念をより広く浸透させることを誓い、この「ひろば経営51%、事業経営49%」というバランス経営を打ち出しました。

「会社は人ありき」と語る矢橋社長。

人材を育て、技術を継承し、地域とつながる「ひろば経営」

私たちが進める「ひろば経営」は、三つの柱で展開されています。

  1. 人材育成を図る「学び舎」
    次世代リーダーの育成を目的とした「社長塾」を開講し、理念を継承できる人材を育て、その他、他社への「武者修行」や、マネジメントを学ぶ「外部研修」、異国の文化に触れる「海外研修」などを行っています。
  2. 技能を伝承する「技術村」
    長年培ってきた技術や技能をしっかりと伝承し、研鑽を重ねる取り組みです。年に一度「セキガハラ技能競技大会」を開催し、社員たちが切磋琢磨する環境を用意。また、「全員有資格者」という目標を立て、会社が技能検定や資格取得のバックアップを行い、資格取得者への報奨金制度も整えました。そのほか、ものづくりマイスターによる若手技術者の育成や、2022年に完成した「匠道場」では、技術者が日々研鑽を図り、技術ラボや、安全動作を学べる講習なども行っています。
  3. 地域貢献を目指す「文化村」
    地域に開かれた会社になるために取り組んでいる活動です。アート作品が置かれた広場を地域の憩いの場として開放し、若手社員が中心となって、イベントやワークショップを行っています。敷地内には、地元食材を使った料理が楽しめる「未来食堂」や「cafe mirai」、美術館「蔵ミュージアム」もあり、地域に広く利用されています。
匠道場。様々なマシンが並び、技術向上のために練習できる。
敷地内にある美術館「人間村生活美術館」や「蔵ミュージアム」。海外の有名アーティストの作品などが常時展示されており、一般の方も見ることができる。

「全員主役の会社」を目指し、離職率1%へ

「ひろば経営」で最も重視するのは人材育成です。私は社長就任時に、自身のゴールを定め、必ず次のリーダーを育てると決めました。そのため、「社長塾」を開き、継承してほしい理念を説き、社長としてのあり方を伝えています。

社長に求められる資質は、謙虚であり続けること。業績を伸ばすと、自分の力を過信し、会社を自分のものだと勘違いするオーナー経営者が少なくありません。その結果、社長がカリスマになり、社員が何も考えなくなってしまいます。それでは、社長がいなくなった途端に会社は立ち行かなくなり、社長に言われるまま何も考えずに働く社員は、果たして幸せと言えるのでしょうか。

関ケ原製作所が目指す姿は、オーナー企業とは対極の「全員主役の会社」です。社員が自ら考え、行動を起こし、仕事にやりがいを感じる。それこそが創業から続く「会社はみんなのもの」という精神の体現にほかなりません。

それでは、一人一人が主役になりうる、自ら考え、行動できる人材を育てるために大事なことは何か。それは、失敗を恐れずチャレンジできる環境を用意してあげることです。例えば、失敗を許容できる範囲で権限を移譲し、あとは口を出さずに、じっと見守る。もしかしたら、見守るだけではもどかしさを感じることがあるかもしれません。それでも、一度任せたら、必ず最後までやり遂げさせる。そうした我慢が何よりも大切です。

そして、たとえ失敗してもそれを責めるのではなく、そこから何を学ぶかを促す。失敗することより、失敗を恐れて行動しない方が罪は重いと考えます。なぜなら、行動しなければ、何の経験も得られないからです。

自ら動き成果が出たら、大きな喜びと共に自信が得られ、その自信がさらなる挑戦に向かわせる。現在、関ケ原製作所の離職率は約1%です。それはきっと「全員主役の会社」であり、仕事にやりがいを感じている結果ではないでしょうか。

社員一人ひとりが責任感と誇りを持ち仕事に取り組んでいる。

「ニッチのデパート」であり続けるために欠かせないものとは

ここまで「ひろば経営」についてお話ししてきましたが、当然、企業ですから「事業経営」をおろそかにしているわけではありません。7事業を展開するニッチ領域で、常に最低でも経常利益率10%は確保しています。かつては不安定な時期もありましたが、2代目社長をはじめとする先輩方がビジネスモデルを再構築し、あまり利益が望めない製品は切り捨て、ライフサイクルコストで利益を得られる製品などへと絞り込むことで、安定性を確立していきました。

また、私たちが常に目指していることは、下請けからの脱却です。取引先と上下の関係ではなく、横の関係、つまり協業モデルを構築したいのです。開発や設計から携わることで、関ケ原製作所は取引先にとってオンリー企業となれます。そして、信頼を勝ち得れば新製品を開発するときに最初に声をかけてもらえるファーストコールカンパニーになることだって可能です。もちろん、そのためには常に技術の向上を図り、どんなニーズにも応えられる力を養わなければなりません。だからこそ、「ひろば経営」の柱が人材育成であり、高い技術力を持ってこそ、信頼を勝ち得ることができるのです。

さらに、協業モデル構築のメリットは、それだけにとどまりません。最先端のニーズを汲み取ることができ、それが国防や社会インフラなどの分野にバックキャストで開発費を投じられることにもつながります。

長年培ってきた技術を用い、最先端のニーズに応える製品を生み出し「ニッチのデパート」であり続ける。そのために欠かせないものも、やはり人材の育成です。当社の製品の多くは、自動化することができず、人の手でしか生み出せないものです。そのため、技術の継承が必須であり、技術を身につけた社員がずっと働きたいと思える環境を保たなければなりません。離職率1%に甘んじることなく、優れた人材の採用と教育、そして定着。その三つが「ニッチのデパート」であり続けるための欠かせない要素だと考えています。

製造もメンテナンスも「関ケ原製作所にしかできない」が数多くあることが“ニッチのデパート”たる所以。

理念というバトンをつなぎ、100年企業のその先へ

「全員主役の会社」になるには、私や役員からのトップダウンだけでは不十分です。部長クラスが自発的に動くミドルアップ、ミドルダウンを増やすことが重要で、それが最終的にボトムアップにもつながります。そして、社員の自主性を促し、権限移譲したら、手も口も出さずに我慢する。それが社員の成長、ひいては会社を成長させるのです。また、私が社長を退くとき、次期社長にはプロパーの社員に継がせたいと考えています。その根底には、やはり「会社はみんなのもの」という精神があり、さらに、外部の人材より、関ケ原製作所の理念のもとで成長を遂げた社員こそ、その志を継承するのにふさわしいと考えるからです。

すべての社員に理念が浸透したとはまだ言えませんが、自発的に動く社員が増えていることから、確実に、理念の理解が深まっていると感じます。関ケ原製作所は、2026年で創業80周年を迎えます。100年企業に向けて私が望むことは、日本のものづくりを伝承し、社会に役立つ、日本になくてはならない会社に成長することです。日本の力になり続けるため、よい人材を採用・教育し、ずっと働ける環境を整える。そして、理念というバトンをつなぎ、社員一人一人が輝く「全員主役の会社」として100年を超える会社を目指していきます。

地域で成長を目指す企業の皆様へ

ニッチ領域での事業展開もさることながら、人材育成や環境づくりを行う「ひろば経営」は、社員のモチベーションアップや満足度を高める施策として、多くの企業にとって参考になるのではないでしょうか。

①「社員の自主性を促し、権限移譲したら、手も口も出さずに我慢する」
②「社長塾による理念の継承、他社への武者修行等を通じた人材育成」
③「技術村のような社員の技術力向上につながる場を用意する」
など、利益よりも人を大切にしてきた取組みが、結果として高利益につながっていることが伺えました。

本サイトでは、市内で成長を目指す企業の取り組みだけでなく、域外で地域の中核を担っているロールモデルとなる企業の取り組みについても発信しております。この記事が、皆様の飛躍に向けた具体的な行動を起こすきっかけとなれば幸いです。

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企業情報

株式会社関ケ原製作所

油圧機器、商船機器、舶用特機、大型製品、鉄道機器、精密製品、軸受製品
業種
製造業
住所
岐阜県不破郡関ケ原町2067
TEL
0584-43-1212
HP

キーワード: 製造業 人材 職場環境の整備

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