
2年目を迎えた「仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」。多様な業種・業態で地域中核企業を目指す、令和6年度支援先企業5社は今、どこに立ち、どこへ向かおうとしているのか。
本連載では、「地域No.1企業への道」を共通テーマに、各社トップの言葉から成長戦略、地域経済への視点、ブランディングや情報発信の考え方、そして未来への展望をひもとく。
単なる企業紹介にとどまらず、地域に根差しながら成長する企業のリアルな現在地を、5本のインタビューでお届けします。
INDEX
常に技術革新に取り組むとともに、祖業である印刷の周辺領域へと業務を拡大してきた今野印刷株式会社。「創業100年のベンチャー企業」という姿勢のもと、「変化し続けること」を経営の指針に掲げ、早くから紙・ウェブ・動画コンテンツの連携などを積極的に展開してきました。近年ではとりわけ、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を加速するためのM&Aの経験が会社の価値を向上させ、次なる良質なM&Aへとつながっています。
(これまでの取組みについてはこちらの記事をご覧ください。)
こうした成長を牽引してきた4代目社長・橋浦隆一氏に、「仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」の伴走支援に対する手応えや、地域No.1企業を見据えた戦略について、率直に語っていただきました。単に自社の成長だけでなく、共通の課題と志を持つ支援先企業5社によるコミュニティの可能性にも、話題は広がります。
社業を継承した当初から、私が一貫して掲げてきた指針は「変化し続けること」です。
創業110余年の老舗であるからこそ、時代とともに姿を変えてきた実績があります。その歴史を踏まえ、柔軟なベンチャースピリットをもって挑戦し続けたいと考えてきました。印刷単体で付加価値を高めようとすれば、どうしても価格競争に陥りがちです。そこで私たちは、印刷を主軸に置きながらも、デジタル領域をはじめとする印刷と親和性の高い分野へと積極的に展開する道を選びました。「創業100年のベンチャー企業」を自認しています。
生き残りをかけて指針を具現化する、その手段のひとつがM&Aです。直近では東京のDM封入・封緘専門の企業と合併しました。その発端は数年前、弊社が東北六県と新潟県をカバーする企業のDM印刷を受注したことにあります。綿密なヒアリングを通してお客さまの要望や困りごとにお応えするうちに、印刷の周辺業務であるデータ管理やマーケティング、コールセンターなどを一括受託し、結果的にBPO事業となりました。ただ、サービスを提供するなかで、封入・封緘作業がボトルネックだという新たな課題も見えてきました。その課題解消を目的に、弊社にはない先進の設備・技術を持つ企業と事業を統合したのです。こうしてマーケティングからDM発送まで一気通貫で進める体制が整ったことにより、発送業務の負担が軽減し、弊社は本来コアとしたいマーケティング業務に注力できるようになりました。
以上の例は、弊社のソフトと他社のハードとの融合ですが、反対に、他社が有するソフトと弊社のハードを補完するM&Aも経験しています。現在検討中のM&Aも後者のパターンです。統合予定先は、学会運営に特化してウェブ配信や参加費徴収、論文集印刷といったノウハウを有しています。そこに弊社のデジタル技術を活かすことで、よりすぐれたサービスの可能性が広がります。

地域No.1企業としての将来を見据える上で、印刷を祖業とする弊社には大きな成長の柱が3つあると考えています。
1つ目は、印刷周辺領域へのさらなる展開です。印刷業界は常に技術革新の只中にありますが、弊社はこれをピンチではなくビジネスチャンスと捉えてきました。今後も印刷業に軸足を置きながら、市場ニーズを見極め、周辺領域へと貪欲に事業を拡張していきたいと考えています。それは同時に、一分野への過度な依存リスクを回避することにもつながります。
2つ目は、M&Aによって周辺領域を取り込んだ「その後」の展開です。M&Aの成否を左右する要素は多岐にわたりますが、最終的な決め手は、経営者同士が信頼し合えるかどうか、いわば「ウマが合うかどうか」だと感じています。その後の成長を左右するのがPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)であり、私たちも特に重視しています。
PMIの現状については、グループ各社のマネジメントや業務フローの立て直しなど、課題解決の道筋が見えてきました。合併先企業の社員との間には一体感が生まれるなど、企業文化の醸成も良好に進んでいます。今後は「仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」のより実践的な伴走支援に期待しています。
3つ目は、新たなビジネスモデルの創出です。
自社の強みと外部の「何か」を組み合わせるには、まず自社の真の強みを理解する必要があります。そのためには、業務プロセスを一つひとつ見直すBPI(ビジネスプロセス改善)が欠かせません。地道な取り組みですが、こうした積み重ねこそが、真のイノベーションにつながると信じています。
いまだかつてない速さで変革の波が起きている今日、印刷会社に求められることも日々変化しています。こうした三つの成長の柱を着実に前進させていくためには、スピード感ある意思決定が不可欠です。技術革新と歩調を合わせた社内の意識改革は、設備投資や技術力の強化、さらには営業力の底上げと同等、あるいはそれ以上に重要なテーマだと捉えています。
まずは、社員のモチベーションを喚起すること。意識改革をより加速させるためには、経営者一人の力では足りません。だから外部から変革人材を登用する検討も必要になっていくでしょう。自ら燃え、周囲を巻き込んで、次の世代に伝播させるような人材を求め、育てたいと願っています。
※PMI:企業合併・買収後の統合プロセス。異なる二つの企業の戦略・組織・文化を一つに融合させ、新しい組織として円滑に機能させることで、買収前に描いた相乗効果(シナジー)の最大化を目指す活動。
弊社は国の「100億宣言」事業に申請し、2034年に売上高100億円を目指す成長戦略を公表しています。その過程で、「仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」の伴走支援を受けてきました。その手応えの実感として、大きく2あります。1つは、外部コンサルタントの視点が加わることで、自社の課題を客観的に見直すきっかけとなったこと。もう1つは、M&Aの企業選定において、有益なセカンドオピニオンを得られるという点です。
ここで強調したいのは、弊社のM&Aは売上100億円を達成するための手段ではあっても、目的ではないということです。どのような価値を創出し、どう差別化し、どのように地域に必要とされる存在になるのかというビジョンをもつことは、数字以上に重要だと考えています。唯一無二の価値を創出できれば、売上は必ず後からついてくる。それを肝に銘じることができたのも、売上目標100億円を表明したことで、自らの未来を見つめ直す機会を得たからです。
弊社にとって、地域No.1企業の定義は「目の前のお客様にとって最も必要とされる会社であること」です。そのために地域に必要とされ、地域にあってよかったと思われる存在となりたい。地域の価値を向上させる仕事をなしたい。だから自社のプレゼンスを向上させるために足りないパーツを取り込む、その必要に迫られてM&Aの手法を選んだともいえます。
地域社会への貢献という観点からは、仙台商工会議所が主体となった「仙台まちいこ」アプリの開発があります。商店街の歳末大売り出しなど季節ごとのイベントの情報や割引クーポンが入手できるなど、ウィンドウショッピングをする感覚でデジタルとリアル両方の世界を楽しめる機能が満載のアプリです。中心部の商店街は百万都市仙台の魅力を高める「顔」ですが、賑わいや売り上げの低迷という重い課題に直面しています。弊社のテクノロジーがまちの大切な「顔」を元気にする一助になればと思います。
ほかにも、地元企業がデジタル技術を生かしてまちの活性化を目指すプロジェクト「仙台まちテック」にも参画するなど、行政や商店街にコミットし、公共の課題を解決する地域活性化に積極的に関わっています。

集中支援事業の一期生として選ばれてから約1年半。市のサイト等で取り組みが発信されることで、社員たちの理解や誇りも高まっていると感じます。また、市の担当職員と気軽に相談できる関係が築けたことも、大きな成果です。第一期生として成功事例とならなければというプレッシャーを感じつつも、この集中支援事業を私たちの手でよりよいものにしていきたいという気持ちも強まっています。
同時に選定された他4社の経営者とは、業態は異なれど、課題や志を共有する仲間として切磋琢磨しています。経営者同士が本音で語り合えるコミュニティが生まれたことは、この事業の大きな価値です。
2025年7月には東京を会場に、私たち5社が他の先進企業や専門家とともに経営課題を議論するセッションが開催されました。各社の社員も帯同し、地域や業態を「越境」して学ぶこの企画は、大きな刺激になりました。セッションを通して、社員も域外の成長企業の現状を知ることで自社の企業風土に気づき、経営への思いに触れる機会になったのではないでしょうか。
また、セッションでは参加企業5社で研修や勉強会の共同開催や人事交流等の実施などの提案が出ました。行政が結節点となって、さまざまな共創が生まれ、広がる。この集中支援事業はそんな可能性を秘めています。
支援期間終了後も、このネットワークを維持し、互いに高め合っていきたい。
それが結果として、仙台、そして地域全体の価値向上につながると信じています。
