SENDAI CORE COMPANY ~仙台市 地域中核企業~

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地域貢献 人材 2025.04.30

小田原かまぼこブランドの継承と変革期の挑戦

鈴廣かまぼこ株式会社 代表取締役社長 鈴木博晶

製造業 卸売業・小売業 宿泊業・飲食サービス業

神奈川県小田原市は東海道の宿場町にして北条氏の城下町。相模湾で捕れた新鮮な魚と箱根の豊かな水で作られる小田原蒲鉾(かまぼこ)は、この地を代表する特産品です。創業160余年の鈴廣かまぼこは、伝統の技を科学の目でとらえ、さらなる品質向上と製造工程の効率化を図りつつ、魚肉タンパク質の可能性に焦点を当てて市場を開拓してきました。水産資源や食をとりまく環境が激変するなか、現在地を「第4創業期」ととらえる鈴木博晶代表取締役社長に、海と食卓をつなぐ独自の事業展開について伺いました。

第4創業期をいかに動かすか

―小田原蒲鉾はグチやオキギスなどの白身魚のすり身を蒸し上げた板蒲鉾で地域の特産品です。中でも御社の製品は、保存料に頼らず、天然素材や自然発酵の調味料を活用し、魚の旨みにあふれた独特の弾力が特徴です。まずは、これまでの事業の歩みをお聞かせいただけますか。

当社は幕末の1865年、町中の魚市場近くの網元漁商として出発しました。そこから約50年の周期で転機を迎えています。蒲鉾専業になって製造販売が軌道にのったのを第2創業期とすると、第3創業期は1960年代。モータリゼーションの到来を見据えて町中を離れ、郊外の国道1号沿いの風祭(かざまつり)地区、つまり現在の本社や本店、風祭工場のある場所に移転した時代です。
ここは当時、水田が広がっていて民家がぽつりぽつりとしかないようなところでした。団体のバス旅行が全盛期の頃は、大型観光バスの立ち寄りスポットになり、箱根観光の玄関口となったわけです。
今は次の転機である第4創業期に当たります。この先50年を見据えると、これまでのビジネスモデルは通用しなくなると感じています。また、成長とは何かを考えさせられる時代でもあります。常に「老舗にあって老舗にあらず」という信念で進んでいかなくてはならないと考えています。

鈴廣かまぼこが運営する観光・お土産・食事スポット「かまぼこの里」は、箱根登山鉄道「風祭駅」と店舗が直結しているのも魅力。車でのアクセスも国道1号線に面していて便利なため、平日でも大勢の観光客でにぎわっている。

―「これまでのビジネスモデルは通用しなくなる」と感じるのは、どのような点ですか。

まずは、人口減少です。あと20年もすれば日本の人口は現在の8割まで減ると言われています。ということは、このまま手をこまねいていると人口減少に伴い、蒲鉾需要は大幅に減ることが見込まれます。労働人口も全国的には7割まで減るといわれているため、限られた人手でどれだけ生産性をあげて価値の高いものを作るかが重要になります。また、地球規模の海洋環境の変化も大きな要素の一つです。海水温の上昇によって材料となる魚の生息地は北へ北へと変化し、資源の絶対量の減少も懸念されています。

―市場環境の構造的な変化が進む中で、現在の消費者ニーズについてはどのように捉えていますか。

練り製品の市場規模は、40年前の100万トンから現在は40数万トンにまで縮小しています。お正月など特定の時期には一定の需要があるものの、日常的に練り製品を食べる消費者は限られているのが現状です。
ただ、これらは見方を変えればポジティブな要素にもなります。10人に1人しか蒲鉾を食べないのなら、それを2人に増やせば、単純に需要は2倍に増える。例えば携帯電話はもう10人のうち10人が持っていてマーケットが飽和状態ですね。それに対して、練り製品には大きなのびしろがあると思っています。不飽和マーケットどころか、ある意味ブルーオ―シャンなのです。さらに、限りある水産資源から効率的な製造を実現すれば、まだまだ大きな可能性が広がっています。

「かまぼこの里」の店内では、商品の販売だけでなくさまざまな体験ができる。写真は、オリジナルのパッケージづくりや包装ができるコーナー。かまぼこを“贈る”ための多彩なコミュニケーション提案がユニーク。

魚肉たんぱく質の価値向上へ

―かまぼこ需要を増やす取り組みとして、「かまぼこ博物館」の運営や箱根の地ビール製造など、練り製品を販売するだけではない多角的な展開をされていますね。その核となるのはどのような戦略ですか。

ミッションとして「お魚たんぱくで世界を健やかに」を掲げています。需要を増やすためのポイントは、蒲鉾を含む練り製品がいかに良質なタンパク質であるかを理解していただけることなのです。近い将来、世界では人口に対してタンパク質の需要と供給のバランスが崩れる「プロテインクライシス」が起きるといわれています。これは、食資源の減少という供給側のリスクに加え、世界的な人口爆発や新興国の経済成長に伴う需給側の事情によるものです。だからこそ消化吸収率がよくて美味しい魚肉をもっと食べていただきたい。それにはお客様にもっと練り製品の特性やおいしさを理解していただくことが重要だと考えています。

―食生活の変化によって、魚を食べる機会が昔に比べて減ってきているように思いますが、この傾向についてどのようにお考えですか。

そもそも日本人1人当たりのタンパク質摂取量は、かつては牛豚鶏より魚肉の方が多かったのですが、現在は逆転しています。また、EPAやDHAなどお魚に含まれる油は健康によいとアピールされていますが、魚肉由来のタンパク質そのものの有効性は、これまであまり注目されてきませんでした。実際、日本人は脂質の摂取が過剰な一方で、特に若年層を中心にタンパク質が不足しがちです。魚肉タンパク質の栄養的な優位性をアピールすれば、練り製品は再び注目されると考えています。

―魚肉タンパク質の特性に関する研究を進めるため、社内で研究体制を強化されているとお聞きしました。

当社では、魚肉タンパク質の特性についてエビデンスを取り製品に反映させるため、「魚肉たんぱく研究所」を立ち上げて科学的視点からも取り組んでいます。また、もう一つの目的は製法そのものを「科学する」ことにあります。伝統的な小田原蒲鉾には、各工程に独特の技術や感情的にノウハウが受け継がれてきました。同じ魚でも大きさによってタンパク質の繊維の太さも異なり、季節によっては脂の乗りも変わる。従来は職人がその時々の素材に応じ、経験によって修得した勘で調整していましたが、そうした技術を科学的に可視化することで、品質をより安定させて技術の継承も理論的かつスピーディに行うことができるようになりました。

―「魚肉たんぱく研究所」での成果が具体的な製品展開に生かされ、また蒲鉾の価値について知ってもらうことにもつながるわけですね。御社ではほかにも、消費者とのコミュニケーションを促進する取り組みを様々されていますね。

1996年にオープンした「かまぼこ博物館」では製法を紹介しながら、子どもたちが蒲鉾づくりのワークショップに参加できるプログラムを設けています。「美味しいな」「面白いな」「いろいろあるんだな」と感じてもらうことで、将来の消費者になってほしいと考えています。今日明日の売上ではなく、もっと長いスパンでとらえていきたい。それは、練り製品の消費は中高齢者層に偏っている傾向があるからです。顧客層を広げるために、レストラン「えれんなごっそ」でもいろいろな商品をさまざまな調理法で提供しています。そのほか、蒲鉾にオリーブオイルをかけるとワインと合います、などと和の食卓だけでなく洋風の食べ方も提案しています。さまざまな気づきの場を提供し、それを継続することが重要だと考えています。

蒲鉾以外にも、例えば当社では『万能すり身パウダー』という商品を製造・販売しています。魚のすり身は日持ちしないため、これまでは冷凍しないと流通できませんでしたが、独自製法で粉末にすることで長期間の保管を可能とし、その問題を解決しました。本商品は飲食店で重宝される業務用のほか、自宅で簡単に自家製蒲鉾を作れるキットも販売しています。また、フィッシュプロテインバーや、タンパク質をペプチドに分解して消化吸収率を高めたサプリメント『サカナのちから』など、手軽に魚肉タンパク質を摂取できる商品を開発しています。ほかにも、防災用備蓄食品や介護用食品も開発し、社会課題へ寄り添う商品展開に取り組んでいます。

「かまぼこの里」の一角にある「かまぼこバー」。商品の食べ比べと、自社開発したビールや日本酒とのマリアージュをワンコインで楽しめる。

小田原かまぼこブランドを守るために

―「小田原蒲鉾」は地域団体商標です。小田原蒲鉾共同組合では「小田原蒲鉾十か条」を掲げ、本来の製法・技法・技術を守っておられますね。

組合員は家族経営から会社組織まで規模はまちまちで、それぞれの得意分野があります。小田原蒲鉾ならではの品質を保ちながら、さらに技術を高めるため、定期的に技術実習講習会を開いています。また、月一度の例会では、各社蒲鉾を1本ずつ持ち寄って食べ比べをするのが恒例です。お互いの味、特徴、あるいは新商品などをそこで確認するのです。互いを批評するのではなく、技術を囲い込まない風土を醸成し、全体的なレベルアップを図っています。

―御社の鈴木悌介取締役相談役は小田原箱根商工会議所会頭も務められています。社会課題解決についてはどのように取り組まれていますか。

そもそも生産活動には膨大なエネルギーが必要です。燃料を使って漁船を海に出し、水産資源を捕獲して、船内で鮮魚を冷凍し、輸送費をかけて工場に運んだら大量の水を使って蒲鉾に加工する――。こうして地球に負荷をかけるからには、捕った魚をしっかり人間の暮らしに役立てなければならない。あまり利用されていなかった魚種、「未利用魚」をいかに有効に活用するか、そしていかに魚を最後まで使い切るかが地球環境に対する義務だと思っています。例えばアラなどの残滓(ざんさい:残りの部分)は肥料『うみからだいち』に加工し、米やお茶の栽培に活用してもらっています。
そのほか、環境負荷を最小限に抑えるために、本社はゼロエネルギービル、工場は太陽光発電利用、レストランでは地中熱や地下水を使った空調を備えるという整備を行っています。しかし、その取り組み自体をアピールするつもりは全くありません。社会課題解決の取組みは、企業として当然の責任だと考えています。

―地域に対する思いと、その実現に向けた取組みについてお聞かせください。

地域という視点からいえば、小田原蒲鉾を育んだ歴史的背景を見つめなおしたいと考えています。ここは豊臣秀吉以前、北条氏が治めた地です。北条氏は城下町を潤すため早川から取水して日本最古の上水道を敷設しました。地下水が豊富で、富水(とみず)や螢田(ほたるだ)、飯泉水(いいずみ)など、水にまつわる地名がたくさんあります。ことに旧城下町である小田原市の西半分は地下水をくみあげて水道水としています。小田原蒲鉾のぷりぷりした食感もカルシウムやマグネシウムを程よく含んだ箱根の水にさらすことによる産物です。
一方、ここ50年ほどでさまざまな治水工事が進みました。早川では本来海に運ばれるべき砂がダムと取水堰にせき止められたことにより、海岸の砂浜が極端に後退してしまいました。かつては砂浜が沖まで100メートルも広がって凧あげをしたりしたものですが、砂浜が狭いため大波が海辺の道路を直撃するようになったのです。原風景が分からないと今の景観の異様さも分からない。そんな危機感から、個人的に市民活動にも関わっています。
また、小田原は藩政時代にさまざまな職人が集められたので、地方都市としては伝統的に様々な業種が存在しています。先ほどの当社の肥料が農業の場面で使われるほかにも、水産と他の業種をつなぐ取り組みを盛り上げていきたいと考えています。

かまぼこの製造過程で出る魚の骨や皮、内臓、皮に残った身などを原料にした農業用肥料『うみからだいち』。この肥料を使って地元小田原の農家に野菜や果実を栽培してもらい、ジャムなどの商品の原料にしたり、レストランメニューで活用したりしている。一般向けに販売も行っている。

志の高い人材を育てるのが鍵

―地方都市においては、事業承継問題は地域課題でもあります。御社の場合はいかがですか。

私がまだ20代だった1987年に創業8代目の祖父、そしてそれを継いだ父が相次いで亡くなりました。母が事業を一時的に引き継いだ後、1996年に32歳だった私が継承したという経緯です。代わりがいないから自分がやるしかない。大変だと感じる暇もなく、がむしゃらに頑張りました。人間というものはそんな環境に置かれると頭が猛烈に回転するようです。
立場が人を作るのだとつくづく感じます。数年前に息子が入社しましたが、事業の承継は「私に譲ってくれ」というくらいの気概で臨んでほしいと密かに願っています。

―「鈴廣人づくり学校」の創設や社内資格認定制度などの学習カリキュラムを設けるなどされていますね。人材の育成や登用と今後の展望を伺います。

社員の一人ひとりの顔を思い浮かべると、ネガティブな印象は何もありません。願わくは、強烈なリーダーシップを持つ人間が増えて欲しいと感じています。幸いにも当社は今、巡行運転とでもいうような状況にあります。平時であればそれで良いかもしれませんが、人はとりわけトラブルに出くわしたり危機的な事態に陥ったりすると結束し、成長するものだと考えています。
製品開発においても販売促進においても「それは鈴廣らしいか」という物差しを当てて考えてほしいと、常日頃から社員に伝えています。言語化はなかなか難しいのですが、その思いはこれまでの事業展開に学び、日々の業務の中で感じて、社内に浸透しているように実感します。
企業としては社員一人ひとりが、自分の仕事がいかに世の中に立っているかを実感し、自信と誇りをいかに持てるかが非常に重要です。そこには高い志もあってほしい。一人ひとりが自分の仕事、自社の価値を言葉にして語ることができるようになるのが理想です。給与を底上げし、志のある社員を育てて生産性の高いビジネスモデルを創出できる、そんな道筋を今後10年でしっかり作っていきたいと思います。

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企業情報

鈴廣かまぼこ株式会社

水産練り製品事業、魚肉たんぱく加工事業、原料開発、企画、研究、製造、販売、店舗開発、飲食レストランや体験型博物館の運営

業種
製造業 卸売業・小売業 宿泊業・飲食サービス業
住所
神奈川県小田原市風祭245
TEL
0465-24-3141
HP

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