企業の成長を支える存在として、近年注目を集めているのが「No.2」の役割です。かつて西田文郎氏が提唱した「No.2理論」は、著書が累計100万部を超えるベストセラーとなり、大きな反響を呼びました。経営者の右腕として、組織を支え、動かし、時に導くその役割とは?
この連載では、成長企業の「No.2」に光を当て、そのリアルな声をお届けします。
初回は、株式会社アフターリクルーティング代表取締役であり、東北大学特任教授としてRIPS(東北大学大学院経済学研究科 地域イノベーションプロデューサー塾)の講師でもある池谷昌之さんに、「No.2」の役割とその重要性について伺いました。人材の採用・育成において豊富な経験を持つ池谷さんの視点から、企業を支える“右腕”の本質に迫ります。
INDEX
業績を伸ばしている企業の多くには、有能な「No.2」が存在します。
No.2とは、経営者の意を汲み、同じ熱量で組織に伝えられる存在です。
これまで、さまざまな企業を見てきた中で感じるのは、中堅・中小企業にこそNo.2が必要だということ。今成長している中小企業は、経営者の発想が豊かで思いが強く、経営者自らの行動力があるパターンが多いです。そんな優秀な人が引っ張る企業は、ある程度の業績を残しますが、どこかで成長が鈍化することがあります。
しかし、経営者の右腕となるNo.2がいることで、その壁を乗り越え、組織の成果を最大にできる、という考えが「No.2理論」です。
No.2には、大きく3つの役割があります。
①経営者の“代弁者”
経営者が不在でも、その想いを同じ熱量で語れる存在がいれば、組織の推進力は格段に上がります。
②“補完者”としての機能
「マーケティングに強い経営者+技術に強いNo.2」や「発想力に優れた経営者+実行力に長けたNo.2」など、№2が経営者を補い、お互いの得意分野を1つにすることで企業の発展が期待できます。
③“橋渡し役”としての信頼
経営者がすべての従業員と直接向き合うのは難しい。だからこそ、No.2が現場の声を拾い、経営者に的確に伝える役割が重要になります。
優れた経営者とNo.2の関係には、日常的な議論があります。No.2が壁打ち役となり、意思決定を支えたうえで、同じ熱量で現場に伝える。この一貫したコミュニケーションが、組織の強さを生み出すのです。
経営者と従業員では、責任感や視野、行動力に差があります。その間をつなぎ、組織を育てるのがNo.2の役割です。
トップの判断は即決になりがちですが、No.2は現場に寄り添い、意見を持ち帰ることができます。トップよりも身近で、現場のことも知っているNo.2には、従業員も意見や疑問をぶつけやすい。そこにやりとりが生まれると、従業員の士気が上がり、自らやることを決めて行動できるようになります。従業員の当事者的主体性が発揮しやすくなるのは、No.2がいる大きな効果の一つです。
一方、トップダウン型の企業は、従業員の主体性が生まれにくい傾向があります。トップの指示待ちになってしまい、提案が却下されることが続くと、「意見を言っても無駄」というマインドになって、消極的学習者が生まれてしまいます。
No.2が育つと経営者にも時間の余裕ができると思います。経営者にはアイデアマンが多いので、それを具現化する準備にも充てられるようになりますね。
No.2を育てるには、まず経営者のビジョンをしっかり共有することが大切です。
「どんな組織をつくりたいか」「社会にどう貢献したいか」といった想いを伝え、すり合わせを重ねたうえで、№2に一定の裁量を与える。従業員の前では口出しをせず、2人の場では本音で議論する——そんな関係性が理想です。
ただ、裁量を渡すことに不安を感じる経営者も多いと思います。だからこそ、同じものを見て、同じように感じ、選択できるようになるプロセスを続け、判断基準を揃えていくことが大切です。
No.2候補は、経営者のビジョンに共感して入社していることが多く、方向性はすでに一致しているはずです。
持っている情報や知見、経験値が違う二人の間に議論があると、新たな広がりをもたらします。
経営者が知らないカルチャーや知見を取り入れる良い機会を得るうえでも外部人材の採用も一つの手段だと思います。
忙しい企業ほど、人材の育成と業務の改善・改革が後回しになりがちです。
しかし、永続的な発展を目指すなら、この2つの取り組みとNo.2の存在が不可欠です。
この連載では、No.2たちのリアルな声を通じて、企業成長のヒントを探っていきます。
彼らがどんな想いで今のポジションに至ったのか、どんな苦労や転機があったのか。どんな話が聞けるのか楽しみにしてください。 今後は、成長企業のNo.2紹介を連載でお届けしますので、ぜひご期待ください。
株式会社アフターリクルーティング 代表取締役
池谷 昌之
東北大学農学部畜産学科卒業。平成3年 株式会社リクルート入社。人事(採用担当)を担当後、研修に関する企画営業、採用に関する企画営業を経験。リクルート時代はあらゆる業界・業種・規模の企業の経営者に取材を行い、その数は年間100社を超える。平成25年 株式会社アフターリクルーティング設立し、宮城県を中心として中小企業の採用力強化に尽力。東北大学特任教授(客員)・東北学院大学非常勤講師・採用コンサルタント・企業研修講師・学生向け講演多数。