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企業と人材を豊かにする「対話」のチカラ

株式会社himori 代表取締役 大石 豊

人材リソースの最大活用

2025.10.09

事業成長を目指すうえで、人材の活用は欠かせない要素です。特に近年では、ダイバーシティ経営の推進が注目され、あらゆる人材をどう活かし、育て、戦略に結びつけるかが中小企業にとっても重要な課題となっています。その解決策のひとつとして、「対話」が注目されています。

対話によって、どのような価値が生まれ、事業成長にどうつながるのか。これまで約200社・3000人と対話を重ねており、個人で焚火と対話のコミュニティー活動も行っている“対話の人”、株式会社himori代表取締役・大石豊氏に話を伺いました。

「対話」は経営の武器になるのか?

僕は今、組織開発や人材開発、そして対話の場づくりを仕事にしています。リクルートでビジネスの基礎を叩き込まれ、転職支援や採用コンサルタントとして15年ほど、人と企業の意思決定の場面に立ち会ってきました。

特にこの5年ほどは、「仙台たき火ティー」という焚火と対話のコミュニティーを始めたことをきっかけに、全国各地で、街ぐるみの対話の場をつくる機会が増え、企業や行政、地域社会での対話の場づくりに取り組むようになりました。

ただ、僕は“対話原理主義者”ではありません。対話がすべての課題を解決するとも思っていません。でも、これまで数多くの転職者やキャリアに悩む方々と対話してきた経験から、対話が経営に役立つという実感があります。仙台エリアの企業経営者とも多くお会いしてきましたが、対話が経営の現場で役に立つということを感じています。

対話の実践者として僕の赤裸々な経験と直観からお伝えできればと思います。

現場の声が語る、組織の本音

企業で対話をしていると、こんな声をよく耳にします。

「市場が変化しつつあり、売上がジリジリと減っている」
「理念や会社で大事にしたいことが社内に浸透している実感がない」
「最近、従業員や部下との意思疎通が難しい」
「離職者が増えている。採用も難しくなってきた」
「外部パートナーとの共同プロジェクトが思うように運ばない」など。

これを読んでいる方の中にも、思い当たることがあるかもしれません。
ちなみに、これらはすべて僕自身も経験してきたことです。

対話の話をすると、必ずと言っていいほどこんな反応が返ってきます。

「生産性が低い」
「自社で導入したら組織に対立が起きてしまいそう」
「時間ばかりかかって何も決まらないのでは?」
「売上に繋がらない」。

正直、僕もそう思っていた時期があります。それでも「対話が必要」と言われるのは、成長する企業の中で、対話が自然に行われているという必然性と事実があるからです。

仙台市職員向けの研修。本庁舎内外から約60名の職員で輪を囲む(2024年10月)

立ち止まった先に、対話があった

少し余談になりますが、僕が焚火を始めたきっかけをお話します。端的に言えば、前職時代、自分が率いていた組織がバラバラとなり、精神的に限界を迎えたことがきっかけでした。

2018年、ビジネスパートナーが不慮の事故で亡くなりました。彼は2011年から僕と一緒に人材紹介会社を立ち上げた同志であり、当時の東北支社長でもありました。彼の死後、僕がすべての役職を引き継ぎ、組織を率いることになりました。

しかし、時を同じくしてコロナ禍が遅い、採用ニーズは激減、転職相談者が急増したことで仕事の負担はすさまじいものとなりました。

過労で入院するほど働き続け、事業はV字回復を果たしました。

ただ、組織は崩壊寸前でした。離職者が相次ぎ、助っ人もメンタル不調に。ついには、20年来の仲間にパワハラを指摘されました。

その時、「自分は詰んだかもしれない」と思い、会社に休暇を申し出ました。焚火と対話の場づくりを始めたのは、その少し後のことです。

2022年9月、仙台駅西口のペデストリアンデッキを降りた青葉通仙台駅前エリアで行われた社会実験「MOVE MOVE」での、焚火を通した対話の場。

対話がつくる、指示ゼロの現場

今年、僕にとって大きな出来事が2つありました。ひとつは「Well-Being Conference with “MORI”」という対話を中心に据えたカンファレンスを主催したこと。もうひとつは、その仲間たちと会社を創ったことです。

このプロジェクトでは、垂直型の指揮命令ではなく、対話による運営を徹底しました。1on1から30人規模の対話まで、形式も場所も自由に設定しながら、結論を急がず、場の声に耳を澄ませることを重視しました。

「指示がないと動けない」「決まらないから抜ける」と言われることもありました。でも僕は、場に耳を澄ませ続けました。責任者としてではなく、参加者として、自分の声を出し、他者の声を大切にする。それだけを心がけました。

結果として、カンファレンスは多くの協力を得て成功を収めました。そして驚いたのは、そこから自然な流れで会社が生まれたことです。「会社のCxOをやるよ」と言ってくれる仲間が現れ、今も皆が主体的に動いてくれています。

僕は「営業してくれ」とも「サイトを作ってくれ」とも言っていません。ただ、想いを出しながら対話をしていただけです。それでも、メンバーは自ら動き、会社を育ててくれています。これこそが、対話が生み出す力だと感じています。

リーダーがつくる、信頼の器

対話学の第一人者で、武蔵野大学ウェルビーイング学部の中村一浩准教授は、対話をこう定義しています。

《一定の信頼を基盤として、さらなる理解と探求のために、想定を保留し、問いかけ、起こるすべてを尊重しながら、関わる人達の変容と新たな意味を生み出す、応答を通じた相互交流のプロセス》

対話は、声の重なりの中から意味を生成し、声を出し合う器の変容を促します。よく「組織は経営者の器以上にはならない」と言われますが、僕自身、マネジメントの現場でそれを痛感してきました。でも、僕が関わったプロジェクトや仲間たちは、僕の器を超えた場所へと連れていってくれました。それは、対話によって器が広がったからだと思っています。

僕が対話の場に向かうときに意識しているのは、「信頼の器」をつくることです。それは、能力や成果に基づく信頼ではなく、「その人がそこにいて、必要な声を出してくれる」という存在への信頼です。声を出せないことも含めて、その人のあり方を尊重すること。それが対話の本質だと思っています。

「心理的安全性のことね」と感じる方もいるかもしれません。でも、心理的安全は“つくるもの”ではなく、“信頼の器”ができた結果として“生まれるもの”です。施策でつくるものではなく、関わる人同士の相互信頼の中から自然に育まれるものです。

2025年3月に開催した「Well-Being Conference with “MORI”」の準備委員会も兼ねた対話(場所:ユーメディア/2024年12月)

一人の声に向き合う覚悟が、組織を変える

経営をしていると、不都合な現実はいつも目の前に現れます。自分自身の不徳により起こることもあれば、政権交代のような外的要因によって、予期せぬ危機が訪れることもあります。東北に暮らす僕たちは、そうした「予測不能な現実」に何度も向き合ってきたはずです。

では、そんな時に何を信頼すればいいのか。マーケットか、ロジックか、中期経営計画か、あるいは神仏か。どれも否定はしません。でも僕は、目の前の「組織」を信じたい。目の前の「一人のメンバー」を、その集合体としての組織を信じたいと思っています。

信頼とは、評価でもコントロールでもありません。その人をまるごと受け止めること。その人から出る声を、世界からの声として扱い、耳を傾けることです。「あれどうなった?」の前に、「今日もおはよう」「今日もありがとう」と声をかける。組織における対話とは、そういう営みだと思っています。

そして何より大切なのは、経営者自身が「自分」として対話の場に立つこと。肩書きや役割を一度脇に置いて、自分の中から湧いてくる声をそのまま出す。それが、対話の礎になるのです。

すぐに受け止めてもらえないかもしれない。すれ違いや対立が起こるかもしれない。でも、1人1人の声は波のように誰かに届き、やがて現実を変えていきます。それを体感した組織は、社会やマーケットを変えていく力を、確かに身につけていくのです。

経営における「対話」の本質

最後に、僕が経営の現場に「対話」を提案する理由をまとめます。

  • 対話は、売上を上げはしません。でも、共有された意味を通して、売上を作る器そのものを変化させるのです
  • 対話は、劇的にKPIを変えることはしません。でも、KPIの隙間からイノベーショを生み出すかもしれません
  • 対話は、一夜にしてハッピーな組織を作りません。でも、じっくりと時間をかけて、信頼という強固な石垣を作るのです
  • 対話は、メンバーのスキルをすぐには開発しません。でも、仕事を通した生きる意味を社員に涵養し、人を組織の創造の火として育みます

経営における対話の本質は、「人材リソースの最大活用」にあります。社員の知恵やアイデア、顧客との接点から生まれる声を尊重し、それを企業の目的と結びつけることで、組織の力は確実に強くなります。エンゲージメントも変わり、理想的な、あるいは理想を超えた成長を遂げる企業が生まれていくのです。



株式会社himori 代表取締役 大石 豊
リクルートにて採用メディアの営業チームをマネジメント。2011年、ハイキャリアのUIターンに特化した人材紹介ベンチャーにて東北事業を立ち上げ、2018年より執行役員・東北支社長。インフラ大手から地場中小、ベンチャーと業態問わず企業の採用・定着を支援。2023年に独立し、組織のコミュニケーション・デザインで「人に選ばれる企業づくり」をサポートする(株)himoriを設立。2017年度宮城県中小企業家同友会県理事。「仙台市未来創造企業創出プログラム」「宮城県公民連携プロジェクト」など行政連携事業にも参画。2021年より個人で始めた焚火と対話のコミュニティー「仙台たき火ティー」の活動は「ウエイクアップアワード2022-2023」を受賞。2025年3月には「Well-Being Conference with “MORI”」を主催。国家資格2級キャリアコンサルティング技能士。


対話を実践してみたい方へ

「自社でも対話を取り入れてみたい」「まずは話を聞いてみたい」と感じた方は、ぜひお気軽にご相談ください。小さな一歩から、組織の変化が始まります。

お問い合わせ先:仙台市経済局 中小企業支援課
Tel:022-214-7338
Mail:kei008040@city.sendai.jp

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