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ハードとソフトで組織を変える。社長の覚悟を支えた右腕の決断

Orbray株式会社 代表取締役副社長 和田 統

No.2人材(右腕ポジション)の発掘・育成

2026.01.22

業績不振からの脱却。その裏側には、徹底した対話と役割への覚悟がありました。

社長の右腕となり経営を支える「ナンバー2」に話を聞く本連載。

3回目は、秋田県に製造拠点を置き、工業用宝石の精密加工を中心とした事業で世界に顧客を持つOrbray株式会社の代表取締役副社長、和田 統さんを訪ねました。コンサルタントから副社長へ転身し、並木里也子社長と共に業績のV字回復を成し遂げた背景に迫ります。

ゼロから始めた信頼づくり。新社長を支えた決断

―和田さんはもともとコンサルタントとしてこちらの会社に関わっていたわけですが、どういう経緯で入社されたのですか。

私が当社にコンサルとして関わり始めたのは2017年、社名変更前の「アダマンド並木精密宝石」の頃です。経営立て直しのため、二代目の章二社長と一緒に再建に取り組み、旧アダマンドと旧並木精密宝石の合併、国内外600~700名の従業員のリストラ・人員削減、国内外の複数拠点の整理・縮小、経営体制の刷新、各ステークホルダー対応、役員報酬の削減など、普通だったら2~3年かけて行うような改革を半年足らずでやるというミッションに取り組みました。その結果、2018年度の連結営業利益は、前年の▲20億円の赤字から何とか黒字転換を果たす事が出来ました。

ちょうどその頃、「長女の里也子へ社長を譲りたいのでサポートをしてもらえないか」と二代目社長よりご相談を頂きました。当初私はコンサルの立場から事業承継をサポートしていましたが、多くの幹部(当時)からは「何を言っているんだお前たちは」という状況で、ご理解とご協力を頂く事がなかなか思うように進まず…。会社を良くしなければいけないのに、内部の調整だけで2年も3年もかかっていたら、その間に会社がダメになってしまう。それなら自分が中に入って下地を整えたほうが従業員や当社のためになると思い、半ばケンカ腰で「じゃあ皆さんの支援は要りません、自分でやります」と啖呵を切って入社したのが、5年前の2020年4月です。ちょうどコロナが流行りだした時期でした。

―世の中が一番大変な、先行きが見えない時ですね。

当社の売上も落ちて物流もストップし、会社もゴチャゴチャしていましたが、逆にその方がいろいろなことが変えやすいという判断もありました。

―里也子社長が就任の覚悟を決めるまでも、一緒に歩んでこられたのですね。

ええ。この会社がどうなっているのか、外にいた彼女に理解してもらうのは難しかったです。二代目の章二社長と親子関係もあるので、父親としても娘に悪い状況をわざわざ話したくなかったでしょうし。

ただ、章二社長が経営を退く判断をする上で、既存の価値観に縛られない改革が必要だと判断し、三代目に長女である里也子社長を指名したんです。当時の彼女は主婦でしたから、私はもちろん、他の幹部も驚きました。章二社長からは「里也子社長をサポートしてほしい」と頼まれ、私としてももっとこの会社を良くしていきたいという思いがあったので、右腕として社長を支える決断をしました。

私よりも大変だったのは、会社の状況把握と同時に下積みもなく役員になった里也子社長です。彼女はこの5年で本当に立派になられました。従業員との人間関係、家庭のこと、育児、ご高齢のお父様のフォロー……。それらを抱えながら、業績が芳しくない会社の経営をやるのは、想像を絶する大変さだったと思います。でも、私には、5年後、10年後に彼女がトップとして成長する姿が見えていました。社長は我欲がなく、会社のことを純粋に考え、人をまとめる力があります。そこに大きなポテンシャルを感じて全面的にサポートする覚悟を決めました。

従業員1,200人との対話

―業績不振の中での代替わり。全社一丸となっての新たな道筋づくりは大変だったと想像しますが、どうやって従業員の心に火をつけたのですか。

一言でいうと、徹底したコミュニケーションです。里也子社長も私もカリスマ経営者ではありませんから、すぐに新製品や技術を開発したり、強固な販路をつくったりすることはできません。だからこそ、社内の協力関係構築を最優先にしました。

役員や幹部とは何十回もミーティングを重ね、こちらの考えを説明し、相手の主張や立場を理解し話し合う時間を設けました。さらに、2022年頃から1~2年かけて、社長と手分けをして国内の従業員1,200人(当時)と面談しました。

面談を通じて現場の声を拾い上げる一方で、里也子社長は経営者として「先に利益(誠意)を分配する」という大きな賭けに出ました。2016年頃からの業績低迷期、ボーナスは1ヶ月分かほぼゼロ(寸志程度)という状態が数年続いていましたが、業績が完全に回復しきる前の2021年、里也子社長は「ボーナスをかつての水準(4ヶ月以上)に戻す」という決断を下しました。加えて、長年ストップしていたベースアップを再開、従業員手当を改善、長年ストップしていた新卒採用活動を再開、長年閉鎖していた各拠点の食堂を再開、100名近い契約社員を正社員登用、評判の悪かった社服を全面リニューアルするなど、リスクを取って従業員への投資を大幅強化しました。

ボーナスに関して、口座に振り込まれた金額を見た従業員から「こんなにもらっていいのか」という驚きと喜びの声が上がり、長年従業員から文句を言われ続けていた現場の幹部や人事担当者が涙を流されました。他の施策も多くの従業員から大変好評で、社内の空気は一変したんです。

経営は、人間関係の上下ではなく、お互いにお願いし、お互いに返していくキャッチボールの積み重ねだと思っています。ボーナス改善・ベースアップ再開・従業員手当改善・新卒採用再開・食堂再開・契約社員の正社員登用・社服リニューアルという形でこちらから出したものが、従業員の前向きな気持ちとなって返ってきた。面談も含め心と心の対話ができたことによって、経営層と従業員との信頼関係が強固になり、また、自分の考えや思いが会社に届くという体験をしたことによって一人ひとりに自主性と積極性が芽生えてきました。対話を経て現場が自走する組織に成長したことが、業績回復につながったと感じています。

「里也子社長に代わってから“言われたことだけをやる”トップダウンの組織から、一人ひとりが専門家として自ら考え動き出す“現場が自走する組織”へと変貌を遂げました」と和田さん。

ソフト面・ハード面のアプローチが奏功

―現在のご自身の役割はどのようなものだと感じますか。

そうですね…わかりやすく言うなら「なんでも屋」ですね。サッカーで言えば、ディフェンスもフォワードもゴールキーパーもこなす“ポリバレント”のような存在かなと。具体的なミッションとしては、人事総務、経営企画、IT、財務、IPO、新本社・新工場の建設など、本社業務全般をとりまとめていますが、現場でお客様に会うこともあります。「神出鬼没」が一番しっくりきますね(笑)。

当社はまだ成長過程にあり、里也子社長も経験が浅いので、自分が最も貢献できるポジションを常に探し、行動しています。

―社長と和田さんは、どのように役割分担をしていますか。

主に、社長がソフト面を、私がハード面を担当しています。

ハード面とは、事業ポートフォリオ・事業計画・組織・経営体制・PDCA・ガバナンス・会議体・システム・資本政策などに加え、先ほど申し上げた副社長としての本社業務(人事総務、経営企画、IT、財務、事業戦略、IPO、新本社・新工場の建設、M&A・アライアンスといった本社の基幹業務)。ハード面を推進する上で、「意思決定のあり方」については鍛えられたと思います。具体的には、「判断」から「決断」への転換。コンサル時代のように「選択肢を提示して相手に選ばせる(判断)」のではなく、材料が不十分な環境でも自ら「これで行く」と退路を断って進める「決断」が重要になりました。加えて、リーダーシップ・推進力も重視しています。複数の選択肢で迷う姿を見せると組織の推進力が弱まるため、重要なテーマにおいては責任を持って明確な方向性を打ち出すことを徹底しています。

一方で、社長の役割であるソフト面とは、理念やビジョンを発信し、従業員のモチベーションを高めることです。会社にはイメージリーダーが必要です。大きな会社ほど、ビジョンを示し、組織に勢いを与える存在が欠かせません。当社では里也子社長がその力を発揮しています。特に女性従業員を中心に『社長についていきたい』という声が増えていますし、地域の多くの女性にとって見本となる素晴らしいロールモデルになられていると感じています。私は前職がコンサルだったのでリサーチ・データ分析・施策策定なども行いますが、それよりも現場との関係性を築くことの方が案件の相談や提案など得られる情報が多く、結果として施策や改善の精度が高まると感じています。

当社の場合、かつての業績悪化の原因が「ハード面(投資判断)」の誤りにあったと分析しています。特定の主力事業へ人・モノ・金を集中投資しすぎたことで、海外メーカーの追い上げに遭い赤字に陥った反省から、現在は「どこに資金・リソースを投じるべきか」という投資ポートフォリオの見直しを図っています。

一方で、中長期的に会社を伸ばすには、社内外の信頼関係を強固にする必要があります。これには社長によるソフト面のアプローチが取引先・従業員に効果的に発揮されている部分が大きいので、ソフト面、ハード面の両面で改革を進められているのは良かったと思います。私が「ハード(仕組み)」を整え、里也子社長が「ソフト(一社如一家の精神)」を注ぎ込むことで、かつての「冷え切った組織」は、高い熱量を持った「戦う家族」へと進化しました。

従業員を家族とみなし、一人一人を大切にする「一社如一家(いっしゃいっかのごとし)」は創業以来のモットー。本社に飾られている書は、秋田に工場を建てた際、当時の小畑勇二郎知事から贈られた。(左:並木章二2代目社長、右:並木里也子社長)

「理解と尊重」「本音」「対話」
No.2が社長との信頼を深める3つの鍵

―社長との信頼関係を構築するために、どのようなことを意識していますか。

一つは、相手の立場や状況を理解し尊重することです。里也子社長は相当な努力家ですが、社長経験は浅く、一人でできることにはやはり限界があります。現在国内外に数千社の取引先及び2,300人の従業員がいる中で、すべてを把握するのは不可能ですから、私がフォローしながら、社長の状況に合った対応を常に考えています。

二つ目は、本音で話すこと。偉い立場になると言いにくいこともありますが、ダメだと思ったことや方向転換が必要なことは、顔を合わせて本音で話すようにしています。それは、幹部に対しても同じで、お互いに泣きながら熱意をぶつけ合ったこともありました。

三つ目は、忙しくてもコミュニケーションの機会を持つことです。長く一緒にいると甘えが出て対話もおろそかになりがちです。週2回、必ず時間を確保し1~2時間かけて話し合い、経営課題から現場の人間関係、時には家庭の悩みまで、包み隠さず本音で議論することで、経営の意思決定に「心」を通わせています。

「里也子社長は、中国の史記『項羽と劉邦』の劉邦に似ていると感じます。劉邦は熱く夢を語る人で、とにかく人望が厚いんです」と和田さん。ナンバー2として劉邦を育てた張良に自身を重ね「張良の生き様そのものを参考にしている部分はあります」と話す。

地域貢献できる企業に

―従業員の皆さんが、自分の仕事に当事者意識を持っている印象があります。これは社長と和田さんの成果ですね。

トップと従業員の距離が近づいたことが一番の要因だと思います。信頼関係を築くと、得られる情報が変わります。現場からの情報を拾い上げ、従業員の力を最大限に引き出したことが、意識改革や業績の伸びにつながりました。2020年に150億円だった売上は、2025年で310億円に。数年後には500億円を超え、営業利益も70~80億円になる予定です。

―今後挑戦したいことや、取り組みたいことはありますか。

2029年のIPO(新規株式公開)実施を基本方針としていますが、業績好調を受け、2028年9月への前倒しも視野に入れ準備を進めています。その目的としては、事業成長の加速、グローバル化への対応、次世代技術開発の加速、従業員待遇のさらなる改善、財務体質のさらなる改善を考えています。

もうひとつは、社長も私も仕事をする上で大切にしていることが「企業は社会の公器」という考えです。Orbrayが持つ数百もの独自のコア技術(精密宝石加工、光通信、ダイヤモンド基板など)は、GAFAMなどのグローバル企業から直接相談が来るレベルのものです。これらの希少な技術を単なる一企業の資産に留めず、秋田という地域に根ざした「日本のものづくりの担い手」として、次の100年へ紡いでいくことを最大のミッションとしています。また、少子高齢化で経営人材が不足する中、Orbrayが成長モデルとなることで、地域の他の企業にも良い影響を与える「地域貢献の仕組み」を作りたいと思っています。

秋田県湯沢市に本社を移転し、新施設を建設することは、単なる生産拠点の強化以上の意味を持っています。IPO・技術・製造・グローバル・教育・地域創生・女性活躍推進など取組を充実させ、国内外から取引先や優秀な人材が集まる拠点とすることで、「湯沢から世界を変える」ことができます。湯沢を「技術・製造中心の拠点」から「IPO・技術・製造・グローバル・教育・地域創生・女性活躍推進の核となる拠点」へと押し上げるのが私たちの目標です。

里也子社長が作った「心の繋がり」という土台の上に、私が培った「経営の仕組み(ハード)」を積み重ねることで、Orbrayが比類なき存在へと成長していくことに強い確信を持っています。当社は5年後、10年後に営業利益が100億円を超えるはずです。日本を代表するものづくりメーカーになれるよう、今後も社長をサポートしていきます。


<池谷’s voice>

和田副社長の言葉から、事業成長の裏側には「徹底した対話」と「役割への覚悟」があったことを強く感じました。外部出身だからこそ既存の価値観に縛られず従業員と徹底的に向き合ったこと、そして、社長のポテンシャルを信じて伴走しながらソフト面・ハード面の役割分担を明確にした点は大きな特徴だと感じます。お二人で従業員1,200人との面談をしたというエピソードに象徴される誠実な関係構築が、経営陣の思いの共有を推進し、変革を現実にした原動力になったと深く実感しました。


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