
2年目を迎えた「仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」。多様な業種・業態で地域中核企業を目指す、令和6年度支援先企業5社は今、どこに立ち、どこへ向かおうとしているのか。
本連載では、「地域No.1企業への道」を共通テーマに、各社トップの言葉から成長戦略、地域経済への視点、ブランディングや情報発信の考え方、そして未来への展望をひもとく。
単なる企業紹介にとどまらず、地域に根差しながら成長する企業のリアルな現在地を、5本のインタビューでお届けします。
INDEX
1982(昭和57)年に創業した住宅設備機器・部材調達の専門商社、ベストパーツ株式会社。ニッチな分野に活路を見出し、オートメーション化を徹底した物流倉庫、対して現場の職人に寄り添う営業スタイルなど、DXとアナログを明快に使い分けた手法で事業を拡大してきました。
(詳しくはこちらの記事もご覧ください。)
仙台市地域中核企業輩出集中支援事業の第一期支援先のなかでは、経営者の意識変革が最も顕著な企業でもあります。その変化は社内にどのような影響をもたらし、目指すベクトルをどのように変えたのでしょうか。代表取締役の室橋勝彦さんに話を聞きました。
弊社はニッチなニーズを満たす住宅設備機器・部材調達の専門家として、現場の事業者を支えてきました。取り扱いアイテムは、温水暖房・給排気筒・空調換気・設置固定・給水給湯・燃料配管・配線器具・作業用品の8分野、約17000点に及びます。
東日本大震災後すぐに新築した現在の社屋では、デジタル技術により物流倉庫のオートメーション化を図り、ECサイトを介して迅速に商品を届けるシステムを構築しています。2019年、組織を営業部・業務部・物流部の三部門体制に再編したことを機に、「2030年に売上50億円」という目標を掲げました。住宅の建築はおよそ30年、設備の更新は10~15年サイクルと言われています。東北地域全体のマーケットを踏まえると、現状の人的・システム的なリソースだと最大50億円だろうと判断した現実路線の数字です。
この目標達成に向けて活用したのが、仙台市地域中核企業輩出集中支援事業です。営業活動を戦略的に進めるため、顧客と受注商品をセグメント化してクロス分析などを行うことで課題の抽出と提案力を強化するという支援を受けています。コンサルタントとのミーティングも、当初の月1回から月2回へと増やし、現状と方向性を見つめなおす密なコミュニケーションを行っています。論理的かつ数値データに基づくアドバイスを受け、会社の「真の成長」とは何か、そのために何をすべきかを具体的に描けるようになってきました。
業界を取り巻く環境も、近年大きく変化しています。2025年にはLPガスに関する法改正(※1)があり、2027年にはカーボンニュートラル実現に向けて住宅の省エネ要件が変更されます(※2)。これらの動きにより、取引先のなかには新たな収益モデルの構築を迫られている事業者も少なくありません。こうした変化に対応し、確固たるマーケットを構築するため、2026年4月から本格的に「増社増客」の取り組みを始動させます。現状は「取引先1000社・売上27億円」ですが、目標は「2000社・50億円」。商圏を北関東エリアへ広げると同時に、ヒートポンプ市場に注力することで、毎期200社の増加を目指します。新規顧客の開拓とEC部門の受発注強化を両輪で進めていく考えです。
※1 「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(令和6年経済産業省令第32号)
※2 資源エネルギー庁「令和7年度以降におけるZEH+(『ZEH+』及び Nearly ZEH+)の定義変更について」
現在、弊社の倉庫では、取扱商品の売れ行き予測に基づいて毎日30品目を倉庫の手前に自動で移動させ、ピッキング時間の短縮を図っています。梱包・発送部門も究極まで自動化して、毎日16時までの注文を当日出荷するという業界随一のスピードを実現しました。商圏を北関東までと定めたのも、確実に翌日届くというエリアだからです。
ただし、どれほどDXを推し進めても、“ラスト1マイル”には人間の手が必要です。この“ラスト1マイル”こそが他社との差別化を図る最重要ポイントだと考えています。そのため、受注から発送までの工程は徹底的にDX化する一方で、営業スタイルは訪問や対面などのアナログな動きや、電話での問い合わせ対応を大切にしています。
営業担当者は、工事や材料に関する法改正などについて現場で丁寧に説明し、電話応対担当者も応対スキル向上のため、(公財)日本電信電話ユーザ協会が実施する「電話応対技能検定(もしもし検定)」の取得を推進しています。また、DXを徹底しながらも紙のカタログを継続して更新しているのは、現場の職人さんのためです。手袋を着用したまま作業する職人さんにとって、スマートフォンの操作は容易ではありません。紙のカタログを片手に電話で問い合わせたり、FAXで注文したりする。そうした現場のリアルを踏まえ、職人さんの作業性を第一に考えています。この手法は、今後も変わらず続けていく方針です。


本事業に採択され、コンサルタントとの対話を重ねるなかで、東北という立地や人口動態を踏まえつつも、社員の働く力を高め、地域に貢献できる規模へ進む必要性を言語化できました。成長戦略の第一歩は私の意識改革から。仙台市の集中支援によって最も変化したのは、実は、私自身だと感じています。
これまで弊社では、地方企業の現実のなかで社員に無理をさせず、成果が揃うよう仕組みを磨いてきました。原点は、部材を規格化し、写真・寸法図と価格・納期まで載せた「ベストパーツカタログ」の製作です。判断や体力に頼らないため、物流の自動化やAIの活用にも取り組んできました。
しかし近年、給湯の主流は、深夜電力を活用するエコキュートへ、さらに震災後はリスクヘッジと省エネの観点からハイブリッド給湯器へと広がり、現場の工事もガス・石油の配管中心からヒートポンプの設置工事へと重心が移っています。結果として、給湯と空調の工事区分がほどけ、私たちのような部品供給業者のマーケットにも影響が及んでいます。こうした変化を成長の機会として掴みにいくには、経営者である私自身の判断軸に強度を持たせる必要があると、この集中支援事業で腹落ちしました。
経営者の意識が変わらないことには、社員の意識変容や行動変容は望むべくもなく、組織としての成長もありえません。先端の仕組みも、それを使う人間の意識と行動がともなってこそ最大限に生かせます。目標に向かうには、組織のベクトルを同方向に揃え、推進力をもって突き進むことが大切だと学びました。
正直、集中支援企業に選ばれるまでは、企業理念と経験則を頼りに組織を運営してきましたが、現在は外部コンサルタントとの対話や、他者との交流を通じて、組織運営の本質を学んでいます。いまが最も、企業成長と真正面から向き合っている時期かもしれません。

意識改革に努めると、これまで見えなかった景色が見えてきました。企業のクオリティを高めるためには賃金アップが不可欠であり、そのためには生産性を徹底的に高める必要があります。また、雇用についても近視眼的な手法で外部から募るのではなく、地域の雇用を守る視点で、長期的にプロ人材を育てていくべきだと考えるようになりました。これらは夢というより、将来への強い危機感から生まれた考えです。
私自身が変化することで、社員たちにも徐々に変化が現れ始めました。自社の方針を理解しつつ他社の取り組みにも触れてもらいたいという思いから、私は本事業の一環として開催されるイベントには、必ず社員も同行させています。これが刺激となっているようで、弊社はもともと定例の会議やミーティングをもたなかったのですが、最近では9人の営業担当者が自主的に毎週1回じっくりミーティングを開き、顧客の情報や商品提案の手法について都度共有しています。ほか、幹部社員同士が話し合う場面を目にすることも増えました。はたから見たら小さな変化かもしれませんが、経営者と社員の内面に大きな変革が起きたという点では間違いなく「地域No.1」だと自負しています。この姿勢を、さらに組織全体へ浸透させていきたいと考えています。
弊社は2027年3月には本事業の支援が終了しますが、そのときには経営分析の成果が明確に現れ、課題として顕在化している環境整備がなされているはずです。社員一人ひとりが自社の強み・弱みを深く理解し、自らの部署で十分に力を発揮するだろうと期待しています。そして、いずれは平均年収を1000万円に、年間売上を100億円にしたいと考えています。


これまで経営者団体に属したことのない私にとって、本事業でともに採択された他4社の経営者との出会いは、大きな財産です。異なる業種、事業を積極的に拡大する企業など、市内の身近な経営者の方々と語り合うこと自体が新鮮で、セミナーや合同研修に参加するたびに経営マインドが刺激され、視野が広がりました。例えば、以前は当社の方針に合わないとM&Aは否定的でしたが、一期生でM&Aを経験した経営者からの話で、規模拡大だけではなく内部で育てることが難しい経営人材がグループに来てくれるのがメリットと聞きました。そのような考え方・視点もあるのだとM&Aへの見方が少し変わりました。
また、株式会社井口一世やOrbray株式会社など、先代から受け継いだ祖業を先端的な手法で展開し、世界を舞台に急成長している域外の経営者との交流も刺激的です。企業単独ではなかなかできることではなく、こうした事業に参加できたからこそ経験できました。ほかにも、本事業参加をきっかけにネットワークが広がり、ワークショップなどの勉強会に参加して地域の若い世代の経営者のエネルギーに触れられたのも収穫です。
私が考える「地域No.1」とは、競争で勝つ称号ではなく、地域の不便をなくす力だと考えています。地方では、必要な部材が「すぐ手に入らない」「選べない」「割高になりやすい」といった地域差が出やすい。たとえば、暮らしのインフラを支える定番部材(ガス栓など)の中には、生産や流通が西日本側に厚く、東日本では入手条件が不利になりやすい品目があります。そこで当社が見込みで仕入れて在庫することで、必要な時に必要な分だけ、手頃な条件で渡せるようにする。さらに、需要が限られ価格が上がりがちな寒冷地仕様でも、まとめ発注や設計段階からの関与で価格差を抑える。地域のお客様の選択肢を増やし、調達の負担を軽くする会社であること——それが当社の目指す「地域No.1」です。その思いをより力強く実行していくための気づきを、本事業でたくさん得ました。
本事業は客観的かつ論理的な視点からアドバイスを得られるのが最大の魅力です。社会構造の変化や地域経済の将来などを見据えながら考えを整理することができ、経営者自身が大きく変化し成長できるまたとないチャンスだと、確信をもって言えます。そして、他4社の代表との出会いは、私自身に成長意欲をもたらすよい刺激となっています。ここで培ったネットワークを有効に活用しながら、地域No.1企業を目指したい。地域の一画を担う企業を目指すなら、ぜひ手を挙げることをお勧めします。
