
2年目を迎えた「仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」。多様な業種・業態で地域中核企業を目指す、令和6年度支援先企業5社は今、どこに立ち、どこへ向かおうとしているのか。
本連載では、「地域No.1企業への道」を共通テーマに、各社トップの言葉から成長戦略、地域経済への視点、ブランディングや情報発信の考え方、そして未来への展望をひもとく。
単なる企業紹介にとどまらず、地域に根差しながら成長する企業のリアルな現在地を、5本のインタビューでお届けします。
INDEX
「かたい信用 やわらかい肉 肉のいとう」。WIDEFOOD株式会社のキャッチフレーズの原点は、1967(昭和42)年に精肉店として開業した精肉店「肉のいとう」にあります。仙台牛は、全国300以上あるブランド牛のなかでも飼育条件などに厳しい基準を設けており、肉質等級の最高ランク「A5」「B5」に限定され、取り扱いも販売指定店のみ。こうした品質にこだわり続けながら、伊藤直之代表取締役社長は、本店を含む精肉・弁当・総菜などの販売店3店、飲食店5店を運営。また、グループ企業に福島県本宮市の鶏肉処理場「東北ブロイラー地鶏 加工販売株式会社」、宮城県石巻市の精肉加工会社「株式会社リヤンド松浦」(※2025年10月16日にWIDEFOOD㈱に統合)、岩手県一関市の老舗餅店「三彩館ふじせい」があります。さらに、仙台市地域中核企業輩出集中支援事業を活用し、経営管理体制の強化や人材育成、事業承継型の事業拡大と、多角的な成長戦略を進めています。売上100億円への挑戦は、食を通じた地域経済と雇用創出への思いに裏打ちされています。
弊社が事業拡大を展開している背景には、人口減少という東北の大きな課題があります。特に東日本大震災で1万5千人を超える犠牲者が出た宮城・福島・岩手の三県は、今後も減少が続く見通しです。被災三県を拠点とする魅力ある企業へと成長することで、若い人の地元で働く選択肢を増やしたい。地元に戻って「あの企業で働きたい」と思ってもらえる場所となりたい。そしてゆくゆくは、東日本大震災で亡くなった方の数を上回る雇用を東北に生みだしたい。それは、東京などで経験を積んだ人が戻ってくるきっかけにもなるはずです。
企業が成長して売上が伸びれば、雇用機会は必ず増えます。そして生産性が上がれば、一人ひとりに還元できる価値も高まります。地域とともに成長する企業であり続けたい。それが私の経営の根本にある願いです。
昨年2025年、弊社は国の「100億宣言」事業に申請しました。それに向けて、まずは来期決算でグループ全体の売上50億を目指しています。
生産者の確保、生産能力の向上、販路拡大。この三つを同時並行で進めることで、大きな成長を見込んでいます。将来的にはセントラルキッチンや製造拠点、販売拠点を東北各地へ、さらには関東圏にも広げていきたいと考えています。
成長戦略を具現化する上でも、近年はデザインやブランディングに力を入れています。パンフレットやホームページの刷新、パッケージデザイン、動画制作など、企業の魅力を伝える仕組みづくりがメインです。アーティストのMONKEY MAJIKがプロデュースした仙台牛100%ハンバーガー「HUNDRED BURGER」など、著名人とのコラボ商品や期間限定企画など、ファンを醸成するための取り組みも積極的に展開しています。各店舗が主体的に企画を考え、挑戦する独自の風土が少しずつ根付いてきました。
さらに今後は、他社の通販支援や商品企画など、食産業におけるコンサルティング事業も本格化させていく予定です。まずは飲食分野を中心に、将来的に他業種にも拡大したいと考えています。


仙台市地域中核企業輩出集中支援事業を通じて最初に取り組んだのは、人事評価制度の検討です。これまでの評価は感覚的になりがちで、社員も「何を頑張れば評価につながるのか」が分かりにくい状況でした。職種や役割ごとに評価基準を明確化し、成果だけでなくプロセスも評価する仕組みを整えたことで、一人ひとりが目標を持ち、モチベーションの向上にもつながっています。現在、パート・アルバイトでは評価制度が確立されており、社員については今年夏より運用開始する予定です。
同時に、収支の見える化も進めました。会計システムを刷新し、月次で数字を把握できる経営管理体制を整えたのです。これで部門別、店舗別に収益性を可視化でき、「どこで利益が生まれ、どこに課題があるか」を把握しやすくなりました。各現場の責任者は「自分たちの経営」を意識し、コスト意識や売上向上への工夫が顕著になってきました。
また、この支援を活用してマネジメント層の育成にも力を入れています。年2回の管理職研修では、各部門の課長、部長、店舗責任者クラスが集まり、財務の基礎から収益構造の改善、人事評価制度の構築、そして現場ごとの売上・利益をどう伸ばすかといった実践的な内容に至るまで講師に専門家を招いてテーマごとに深く学びます。毎回意識しているのは、「与えられる研修」ではなく「自ら考える研修」です。参加者は自分たちの数字や課題を分析し、改善案を発表するという形式です。名古屋など遠方の店舗責任者など、顔を合わせる機会の少ないメンバー同士の交流も生まれ、組織としての一体感も高まりました。もちろん、私も毎回、グループ全体の成長戦略やビジョンを共有しています。経営者としての考えを率直に伝えることで、社員一人ひとりが会社の方向性を理解でき、「現場を回す人」から「組織を成長させる人」へと意識が変化してきたと感じています。
私自身、売上だけでなく客数、客単価、来店頻度、通販のアクセス数や転換率など、細かい指標を重視し、経営とは「仕組み」と「数字」で強くしていくものだと、改めて実感しています。

弊社の成長戦略の柱の一つが、事業承継を目的としたM&Aです。これまでグループに加わった企業はすべて、“良質な商品を長年提供してきたものの後継者がおらず、事業がなくなってしまう可能性が高かった企業”です。単に自社の事業規模を拡大することが目的ではなく、「地域に根付いた企業と雇用を守ること」を目的としています。
事業承継型M&Aで最も大切にしているのは、人材と企業文化です。従業員や元オーナーの方々には、できる限り働き続けてほしいと考えています。これまで培ってきた技術やノウハウ、地域との信頼関係は何よりの財産だからです。重要なのは、これからの会社の方向性を明確に示すこと。どこに向かうのか、どうすれば会社が良くなるのか、利益が出て給料が上がるのかを具体的に伝えることで、皆さんが安心して働けるようになります。実際、給与水準の改善により入社希望者が増えた企業もあります。
最初の事業承継型M&Aは、福島県本宮市の鶏肉処理場「東北ブロイラー地鶏 加工販売株式会社」でした。素晴らしい実績と信頼を持ちながら、後継者が不在のため、お話をさせていただきました。経営者との対話を丁寧に行うことで、M&Aを通じて取り組むべき方策を見つけることができ、その思いを叶えるためのサポートや、弊社とのシナジー効果を発揮しやすくなりました。具体的には、経営体制の変更をきっかけに取引先との交渉で商品価値を適切に反映し、単価を上げることができました。これまで様々なしがらみの中でできなかったことが可能になり、東北ブロイラーは事業の立て直しに繋がりました。また、弊社は牛肉中心でしたが鶏肉という新たな食材を安定的に確保できるようになったことによって、からあげなどの惣菜や焼鳥事業にも積極的に活用できるようになりました。仕入れをグループ内でコントロールできることで、価格の安定と品質の確保にもつながりました。続いて、宮城県石巻市の精肉加工会社「株式会社リヤンド松浦」を事業承継しました(※2025年10月16日にWIDEFOOD㈱に統合)。こちらは、えごま豚、島豚を中心としたブランド豚肉を中心に生産者から直接仕入れて加工しており、オリジナルのメンチカツなどの人気商品をすでに持っていました。弊社を含めたこの3社で牛肉・豚肉・鶏肉の三つが揃い、食のバリエーションが大きく広がりました。さらに最近、岩手県一関市の老舗餅店「三彩館ふじせい」もグループに加わりました。観光地で長年愛されてきた企業で、お土産品の開発や通販展開を強化し、新たな収益の柱を育てています。

仙台市地域中核企業輩出集中支援事業に参画してまず感じたのは、「3年間という中期で企業の成長に伴走してくれる行政の支援はなかなかない」ということです。具体的なメリットは以下7つに整理できます。
特に大きなメリットだと捉えているのは、コンサルティングによる個別支援と、経営者同士のネットワークです。自社だけでは気づけない課題が明確になることに加え、同じ志を持つ仲間と学び合える。この2点が、とりわけ会社の成長スピードを高めていくと感じています。弊社はこの事業に参加しなければ、「100億宣言」もしていませんでした。宣言したことで経営者としての覚悟が定まり、整えるべきことを現実的に考えるようになりました。
互いの経験や成果を共有し合うことで、仙台市全体の企業力が底上げされていく。そうなってこそ本事業の本当の価値が生まれるのではないでしょうか。地域中核企業を目指す経営者として、仲間企業と高めあいながら、地域を牽引する成長を遂げたいと強く思っています。
