
社員がいきいきと働く組織をつくりたい経営者の皆様へ
今回は、社員がいきいきと働く組織づくりを基盤に、事業成長を成し遂げた企業の事例をご紹介します。「よなよなエール」、「水曜日のネコ」など個性豊かなクラフトビールメーカーとして、クラフトビールメーカー国内約900社の中でシェアトップを誇る「株式会社ヤッホーブルーイング」です。
1997年に長野県で創業し、8年連続赤字という“どん底”を経験。しかし、2005年から2021年まで19期連続で増収増益を達成しました。
2023年には北海道の新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」に醸造所併設レストランを開業し、今後も全国に様々な製造拠点やエンターテインメント施設の開業が予定されています。
この飛躍を支えたのは、徹底したチームビルディングと独自の組織文化です。
創業メンバーであり、現社長の井手直行氏に、社員が主体的に働き、成果を出す組織づくりの秘訣を伺いました。
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2008年、創業者である星野佳路氏(星野リゾート代表)から社長を引き継いだ当時、社員は約20名、創業以来8年間赤字が続く厳しい状況でした。
私は「日本国内でビールシェア1%を獲得する」という目標を掲げ、全員で売上アップに取り組むよう呼びかけました。しかし、言えば言うほど社員との距離は広がり、一方通行の状態でした。
「このまま我流でやってもダメだ」。そう痛感した私は、楽天大学が企画していたチームビルディング研修に参加しました。全国から集まった見知らぬ受講者と一緒に「チームとは何か」の座学を受けたり、10人くらいで輪になって人差し指だけでプラフープを上げたり下げたり様々なアクティビティに挑戦しました。全員で息を合わせないと達成できないプログラムを受講し、チームワークがうまくいっていない自社の組織が目に浮かびました。「うちに足りないのは、これだ」と確信したのです。
しかし、当時は研修費用を捻出する余裕がなかったため、私自身が講師となり、受講した研修を社内向けに再現。最初に手を挙げたのは7名ほどでしたが、3カ月間のプログラムを通じて、社内に前向きな空気が生まれ、「チームづくりはこう進めるのだ」という実感が広がりました。
とはいえ、すぐに売り上げにつながるわけではないので、当初は懐疑的だった社員や研修を行うことに反対する社員もいる状況でした。研修は当初から希望者だけを対象に実施しており、強制せず、やりたいという意思を大事にしていたのですが、受講後変化していく社員を見て、参加希望者は増えていったのです。うまくいかなくても、あきらめずにやり続け伝え続け、3年かけて社内に浸透していきました。
現在も基本的には当初の研修の形を踏襲していますが、当時からさらに発展、フルオンラインで行い言語化を通してどのようにチームを醸成し成果を出すか、そのプロセスや必要なスキルを学ぶ研修やアクティビティを設計するファシリテーター視点を学ぶ研修など、今では通期で6つほどのプログラムを展開しています。どのプログラムにも共通して言えるのは、今いるメンバーでチームとなり、どのように成果を最大化するかを学ぶ内容であることです。
このチームビルディング研修は、私たちの組織文化や成長の土台になりました。研修が社内に浸透すると、売り上げが爆発的に伸び始めたのです。プロジェクトへの参加希望が次々と集まり、チームで成果を出す喜びを知った社員は主体的に仕事に取り組むようになり、離職率も大きく減少しました。
私たちは2009年から16年間にわたりこのチームビルディング研修を継続しており、1種類だけだったプログラムも現在では7種類まで拡充しました。参加は希望制としており、順番待ちになるほどの人気です。


私たちの組織づくりはチームビルディング研修だけに留まりません。
毎朝、全体連絡の後、5~6人のグループで雑談を行う「雑談朝礼」を行っています。雑談の内容は仕事以外の話とし、社員同士が自由に話す仕組みをつくっています。
最近では外に出て散歩しながら会話する「お散歩朝礼」も始まりました。御代田醸造所の広い駐車場を歩きながら雑談する光景は、他社ではなかなか見られないユニークな取り組みです。
これらは全て業務時間内で行っており、雑談朝礼だけでも年間約5,000万円ものコストをかけている計算になります。組織づくりには膨大な時間とコストが必要ですが、それでも続ける価値があると私は感じています。なぜなら、こうした仕掛けが社員の主体性を引き出し、切磋琢磨しながら仕事を楽しむ文化を育てるからです。その結果、究極の顧客志向につながる「ガッホー文化(下図参照)」が醸成され、事業成長の原動力となっています。
「ガッホー文化」とは、私たちの仕事の仕方や職場環境のあるべき姿を明文化したもので、全スタッフ間で共有しています。「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションで会社の方針を確かめ、ビジョンで現在目指すべき方向を定め、「ガッホー文化」に基づいて日々の具体的な業務に望むのがヤッホー流の組織づくり。スタッフの採用時にもミッション、ビジョン、ガッホー文化の考え方との相性を選考基準にしています。



チームビルディングとともに、私たちの組織づくりを支えているのが「プロジェクト活動」です。部署や役割に関係なく、興味のあるテーマに手を挙げたメンバー同士で短期間のチームをつくり、課題解決に挑む仕組みとしています。これまでに、オフィスDIY、入社式の企画、社歌制作、戦略理解など、ユニークなテーマが次々と立ち上がってきました。製造、マーケティング、営業、システム部門など、異なるユニットの社員が協力し合うことで、多様な視点が融合し、新しい価値が生まれます。
この仕組みを導入した背景には、私自身の経験があります。社長就任当初、業務成績の良い「仕事ができる人」にプロジェクトを任せていましたが、なぜか進捗しない。そこで、「経験はなくても興味がある」と手を挙げた社員にお願いしてみたところ、彼らはうまくいかなくても諦めず、粘り強く取り組み、結果的に成功を収めました。その象徴的な例が、2010年頃に参加したビアフェスです。
もともとは営業部がビールを提供するだけの場でしたが、プロジェクトとして製造や管理など他部署のメンバーが参加したことで、目的は「売上」から「お客様を楽しませる」に変化し、ホップの香り体験や製造工程の映像の投影、待ち時間に「チェキ」で撮影した写真を渡すアトラクションなど、斬新なアイデアが次々と生まれ、結果として当社のブースには大行列ができるほどの人気になり、部署を超えて協力する効果を改めて実感しました。
社員が挑戦しやすいように、業務時間の2割まではプロジェクト活動に取り組めることを呼びかけています。こうした挑戦の機会は本業務にも活かされ、興味のある内容に関わることがモチベーションの向上や多様な人と組んで成果を出す練習になっています。



ヤッホーブルーイングでは、売上や利益といった数字よりも「お客様をどう楽しませるか」を重視しています。ビールの売上は製造、物流、マーケティング、SNSなど、すべての部署の協力で成り立つものです。だからこそ、組織文化は徹底してフラットであるべきだと考えています。
この考え方は、リーダーの選び方にも反映されています。当社では、プレイヤー、ユニットディレクター、統括ディレクター、そして社長の私と4つの役割がありますが、部門リーダーであるユニットディレクターや統括ディレクターは立候補制で選ばれます。新卒2年目以降の社員や中途社員なら誰でも立候補できます。現在所属するチームのリーダーはもちろん、別チームや新しいチームを立ち上げてリーダーになる提案も歓迎しています。
毎年9月、立候補者は全社員の前で自分の思いやリーダーとしてやりたいことをプレゼンし、その後、全社員による投票などを踏まえてリーダーを決定。社員が主体的に選び、納得感を持ってリーダーを決める仕組みになっています。
挑戦する社員は毎年20名ほどですが、実際にリーダーになれるのはわずか。2回、3回と立候補を重ねてようやくリーダーになるケースもあります。数年前には立候補者が多すぎてプレゼンが長時間に及び、「気軽に手を挙げないで」と伝えたほどです。
そして、フラットな組織とするうえで、社員同士をニックネームで呼び合う仕組みも導入しています。社員全員にニックネームがあり、私自身も「てんちょ」と呼ばれています。こうした取り組みが、上下関係に縛られないオープンな関係をつくり、社員の主体性を引き出しています。

ヤッホーブルーイングの正社員の平均年齢は36.6歳。年によっては新卒採用も行っており、比較的若い組織です。長野で働くメンバーの8割は県外出身で、全国や海外から多様な人材が集まります。採用倍率は約100倍に達し、多くの人が「ヤッホーで働きたい」と長野への移住を決断しているのです。現在正社員とパートナー社員を合わせて約220名がいるのですが、離職率は年2~3%と低く、退職者ゼロの年もあります。退職理由はネガティブではなく、次のステージへの前向きな選択がほとんどです。
長野県佐久エリアという立地も魅力の一つ。北陸新幹線で東京まで約90分という「遠すぎず、近すぎない距離」が、仕事と暮らしのバランスを絶妙に保っています。東京へのアクセスの良さに加え、豊かな自然に囲まれた生活環境は、社員の満足度を高めています。若いうちに家を建てて定住する社員も少なくありません。採用活動でも、この「ちょうどよい距離感」をアピールし、社員の休日の過ごし方を採用サイトでも紹介しています。ただし、全国展開が進む中で課題もあります。長野の暮らしが快適すぎるため、異動希望が少ないのです。そこで現在は、「長野も魅力的だけど、北海道や大阪にもそれぞれの良さがある」と伝え、全国の拠点に目を向けてもらう取り組みを進めています。


近年クラフトビール市場は伸びており、コロナ禍以降、私たちの事業も急速な事業拡大期になっています。一方で感じている新たな課題は、経営理念の浸透度低下です。
ヤッホーブルーイングは、Great Place to Work® Institute Japanが発表する「働きがいのある会社」で2017年から9年連続でベストカンパニーに選ばれています。2025年は中規模部門で17位と高い評価を頂きましたが、調査結果から見えてきたのは、理念の浸透率が下がっているという現実です。
要因は、コロナ禍以降に採用数が急増し、正社員のおよそ半数がコロナ禍以降に入社したメンバーであることが考えられます。当時はリモートワークが増え、それまでのように新入社員とコミュニケーションをとることができませんでした。そこで2025年11月に行った全社員研修で、2026年のスローガンとして「ヤッホーイズム守」というテーマを掲げ、原点回帰を宣言しました。
今後は、月に数回全国各地で行う「てんちょ座談会」を通じて、ミッションとビジョンを社内に再発信していきます。さらに、理念を深く理解し、それを伝導できるリーダー育成にも注力します。
もちろん、課題は理念浸透だけではありません。地方での販売網拡大や、大手ビールメーカーとの年収格差も残っています。都会のスーパーにはクラフトビールが並び始めましたが、地方ではまだまだ未開拓。もっと日常に溶け込むビールを届けたいとおもっています。
そして、社員の待遇も大手企業並みに引き上げて、さらに働きがいのある会社を目指していきたいです。

私たちの役割は、単にビールを製造・販売することではありません。私たちが目指すのは、日本に新たなビール文化を創ること。今後は「ビールを中心としたエンターテインメント」にさらに力を入れていきます。
2023年3月に開業した北海道日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」には、世界初となるフィールドが一望できるクラフトビール醸造所併設レストラン「そらとしば by よなよなエール」をオープンしました。
さらに2026年3月には、東京・品川インターシティにブルワリー併設のビアレストラン「YONA YONA TOKYO BREWERY」を開業する予定です。
そして大阪では、泉佐野市と連携し、関西国際空港の近くに醸造所併設のエンターテインメント型施設「よなよなビアライズ」を2026年夏までに開設する予定です。醸造所横にはイベントスペースをつくり、泉佐野市に賑わいを生み出せる場所にしたいと考えています。
こうした拠点展開は、どれも先方からのお声がけによって実現したものです。私たちは、先方が苦手とする集客力やコンテンツ企画力を補い、「デコボコがうまく嚙み合う」協業により新たな価値を生み出すことが重要だと考えています。

私たちには熱量の高いファンが全国にいて、コロナ前に東京で開催したイベント「よなよなエールの超宴」には5000人が集まりました。そんなファンの皆さんが集まるイベントには常に幸せで平和な時間が流れており、初対面の方でもすぐに打ち解けられますし、中にはイベントを通じて結婚された方もいます。争いごともありません。人と人をつなぎ、幸せの輪を広げていく力がビールにはあるのです。
今後実現したいことの1つに、ノーベル平和賞受賞があります。「私たちのビールを飲めばみんなが幸せになり、平和な空間が生まれる」。ビールを中心としたエンターテインメント活動を日本国内だけでなく、世界中に広げていくことで、「みんなが幸せになり平和になる」そんな世界を創り出していきたいと思います。

地域で成長を目指す企業の皆様へ
どれほど魅力的な目標や夢も、経営者1人の力だけでは到達することはできません。ヤッホーブルーイングの事例は、フラットな関係性の中で多様な価値観を認め合い、失敗を恐れず挑戦できるチームをつくることこそが、新しい価値を生み出す原動力になるということを伝えています。
また、今回は人材育成や組織づくりを中心にお話を伺いましたが、独自のブランドづくりと熱量あるファンコミュニティの形成などさまざまな取り組みも行っておりますので、是非、会社のホームページ等をチェックしてみてください。地域で新たな挑戦を目指す企業の皆様にとって、大きなヒントとなるはずです。
企業情報
株式会社ヤッホーブルーイング
| 業種 | 製造業
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|---|---|
| 住所 | 長野県軽井沢町長倉2148(本社) |
| HP |
キーワード: 製造業 人材 職場環境の整備