
琵琶湖のある滋賀県近江八幡市に本社を構える株式会社日吉は、1955年創業の環境インフラサービス企業です。一般廃棄物処理という、いわゆる3Kの現場から事業をスタートした同社は、慢性的な人手不足という課題に向き合い、多様な人材の採用や、今いる社員が長く働ける柔軟な環境整備を積み重ねてきました。こうした滋賀という地域での取組は、本市の仙台「四方よし」企業制度が掲げる「働き手よし」の考え方に通じます。この取組が評価され、同社は、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定されています。本記事では、外国人材の採用や次世代育成の観点から、多様な人材とともに成長する未来について伺いました。
―貴社は、ダイバーシティ経営企業100選に選定された当時(2016年3月時点)の売上高は約62億円でしたが、現在(2025年3月時点)は115億円と、この10年でほぼ2倍の成長を遂げています。特に伸びている事業は何でしょうか。
鈴木代表取締役社長/当社は、一般廃棄物処理事業からはじまり、そこから浄化槽や下水道分野へと事業領域を拡大し、工業薬品や水質・大気・土壌等の分析等に特化しながら、民間企業や行政の環境問題解決を一貫して支援してきました。また、浄化槽保守や下水道調査などの「ライフライン維持管理事業」では、災害視点で地域社会の暮らしを支え、生活インフラ分野への貢献度は高く注目されています。2022年度に売上高100億円を達成し、創業70周年の前期は115億円、今期はそれ以上を目指しています。現在、従業員は400名、国内支店(東京・横浜・中部・大阪)および海外拠点(インド・米国)で事業を展開しています。
近年は、半導体関連企業への工業薬品の売上が特に伸びています。PFAS等分析検査、各種維持管理業務や環境保全等の事業でも、それぞれ売上高が10%ほど上がっています。
―貴社は外国人等の多様な人材の登用で持続的な成長を実現してきました。これまで人材確保、特に外国人材等の採用はどのような経緯で進められてきたのでしょうか。
鈴木代表取締役社長/30年ほど前、中国の技術者の研修を受け入れたことがきっかけとなり、外国の優秀な技術者にインターンシップとして来てもらう取組をはじめました。この活動を通じて、これまでに累計53か国1,182人の研修生を受け入れています。一般的な企業では、外国の方が入社すると社員が身構えてしまうことも多いと思いますが、当社では、社内に外国の方がいることがごく自然なこととして受け止められています。当社では、先代の頃から障がい者の方と共に仕事をしてきた背景があり、「人に差別がない組織文化」があるのだと思います。
―外国人を雇用しても、会社になじめず離職してしまう——こうした課題を抱える企業も少なくありません。定着と活躍のためのコツがあれば教えてください。
黄海外事業企画室長/現在、外国人社員は7名(台湾2名、中国1名、ブラジル2名、インド1名、ベトナム1名)が在職しています。
定着のためには、まず「活躍できる場づくり」が重要です。また、外国人社員の家族のケアもある程度必要になります。日本で生活する中では言葉の壁が大きく、子どもの就学等でさまざまな困難に直面することがあるためです。会社がどこまで支援すればいいかという議論もありますが、家族に対するサポートがあることで、外国人社員本人が安心して働ける環境づくりにつながっています。
大角総務部次長/当社では、外国人社員に対して、同世代の日本人社員が自発的にメンターを務めています。最近は携帯電話の翻訳機能等を活用して上手くコミュニケーションしています。こうした身近なサポートが、外国人社員の定着を支える重要な要素となっています。また、黄氏や既存の外国人社員が中心となって生活マニュアル等を作り、日本での生活の仕方を丁寧に説明してきました。日吉に在職する複数国の外国人社員が、新たに受け入れた外国人社員をサポートする基盤や文化が整っています。
黄海外事業企画室長/休日には、若手社員や有志が外国人社員を観光地に案内するなど、国際感覚を養うべく外国人社員と接する機会を多く創出しています。ホームステイの企画を考え、社内で受け入れ先を募集したこともあります。このような場合は会社から費用助成を行い、グローバル化が自発的に進むようサポートしています。

―御社の外国人の確保・育成はグローバル展開を見据えたものですね。2011年に立ち上げたインド子会社「日吉インディア」の設立背景と今後の展望について教えてください。
黄海外事業企画室長/日吉インディアは国際貢献から始まり、ビジネスへと発展した当社の事業です。設立のきっかけは、当時インドからの研修生が多かったことにあります。単に国際貢献として研修生を受け入れるだけでなく、インド人がインドの環境をよくするための契機にしたいという発想がありました。
本格的なビジネスが始まったのが2017年頃で、当初は日吉にインターン生として来日したインド人の中から社員を募集しました。現在、日吉インディアでは、環境分析、施設の維持管理、用水施設の設置に関するコンサルティングを行っています。社員数は当初10数名でしたが、今は42名にまで成長し、少しずつお客様のニーズにも応えられるようになってきました。
将来的には、日吉インディアへ本格的に投資を進めていきたいと考えています。インド子会社の全体的なサポートを強化し、インド拠点のさらなる発展のため、日本人の駐在員を派遣することを決定しました。私たちのノウハウは、「社会や顧客の困りごとを解決することが、社員にとって最良の技術研鑽につながる」という考え方、そしてその実践方法です。このノウハウをインドに持ち込みたいと考えています。

―御社の高い技術力を支える人材育成の取組についてお聞かせください。
鈴木代表取締役社長/当社は『社会立社・技術立社』という社是のもと、社会へ貢献できる技術力こそが企業の存続に不可欠であると考え、資格種類237種、延べ2,416名の有資格者を擁しています。外部から当社の技術を評価する指標は「資格」ですので、資格取得を含めた学びは欠かせません。当社では月1回、複数の大学から先生を招いて専門技術の勉強会を開いています。また、今年度から全社員を対象に資格支援手当を支給しています。従来は合格時に受験費用を補助していましたが、専門書や受験料の高騰により自己負担が大きくなっていることを踏まえ、会社として事前に金銭面の支援を行うものです。資格は個人のものですが、その資格を持った人材は会社の資産になっています。
―御社の業務には、多様な資格取得などの高い技術力が前提となるのですね。
鈴木代表取締役社長/お客様からのあらゆる要望に応えていくためには、組織全体で必要なスキルや資格を漏れなく有していることが不可欠です。その上で、育児や介護で制約のある社員をフォローしようとすると、個々の社員も多能工化することが大前提です。多能工化のため、属人化している作業については二人体制とし、「その人でなければできない仕事」を減らす取組を進めています。
当社はこれまで少数精鋭で成長してきましたが、この先、高齢化による技術の途絶が大変なリスクとして迫ってきています。だからこそ、多能工化、マニュアル化、電子化が重要です。そして何より、人材が一番大切だと思っています。
ただし、最近はスペシャリスト志向の社員も増えています。彼らの意見を尊重しながら、個々をどのように多能工化していくかという点は今後の課題です。

―御社(滋賀県)と、仙台市では、「大都市圏への人材流出」という点で共通の課題があるように思います。人材の確保や配置についてはどのような考え方で取り組まれているのでしょうか。
鈴木代表取締役社長/滋賀県にある当社は、立地的に優秀な人材の確保が難しいため、せっかく当社に馴染んだ社員には何とか留まってほしいという思いが根底にあります。育児や介護などで通常勤務が難しくなった場合は、短時間勤務や在宅勤務など柔軟に対応しています。現場業務でそれが難しい場合も、必要に応じて配置転換を行うなど、個々の状況に応じた対応をしています。また、所属してみて自分に合わないという場合は、その方の可能性を最大限引き出せるよう別の部署への配置転換を検討します。
新入社員は入社後に総務や営業などの間接部門も含めた全部門を回って幅広い経験を積みます。そのうえで、配属希望を第1希望から第3希望まで出させて配属を決定します。入社当初は「この仕事をしたい」と思っていたものの、各現場を知ることによって自分の適性が見えたり、希望する仕事が変わったりすることもあります。このように、多様な背景や実状に応じた柔軟な人員配置を行っています。
―こうした柔軟な配置や全社的な経験を支える、社員同士のつながりを深める取組について教えてください。
鈴木代表取締役社長/当社では縦横のコミュニケーションを大切にしています。縦のつながりとしては、上司との交流を目的とした「交流支援金」を会社から支給しています。上司との飲み会などの場で、部下が「上司が何を考えているのか」を知る機会をつくるための制度です。
横のつながりとしては、社員同士がコミュニケーションをとれる機会を多く設けています。例えば、「ひよこみ」(ひよしコミュニケーション)というイベントでは、社員の家族を招き、仕事を家族に紹介しています。特に今年は創立70周年記念事業として、大々的な懇親会や「日吉フェス」と称した家族同伴の屋内外体験型イベントも開催しました。


―今後御社を担う若手の育成にどのように取り組まれているか、お聞かせください。
大角総務部次長/当社では、若手社員で構成された「未来会議」を設立し、今期で3期目です。参加は原則挙手制で、全部署から役職問わず各1名、合計5~6名で構成され、そのうち女性は2~3名です。
未来会議での提案は役員会で発表し、承認された施策は会社として取り組んでいきます。交流会補助金や資格支援手当も未来会議で提案された取組です。提案を企画し、上申するプロセスを踏む経験値を養う機会ともなっています。経営層としては、社員満足度につながる現場の生の声を提案してもらえるので、大変参考になります。また、未来会議のメンバーは、他社を訪問して見学や研修を行い、さまざまな企業の取り組みを学ぶなど井の中の蛙にならないよう、外部の視点を積極的に取り入れることを大切にしています。1~3期のメンバー同士もつながっており、部署横断の連携が生まれています。将来的には、未来会議出身者が経営幹部として活躍してくれることを期待しています。
鈴木代表取締役社長/若手の育成という面では、機会をどれだけ与えるかが重要です。与えられた機会のなかで達成感を得られれば、上手くいくようになる、その積み重ねが成長につながります。例えば、当初は「現場に行きたくない」と言っていた若手でも、何かのきっかけで現場で達成感を感じると、次第に前向きに足を運ぶようになります。一人で現場に行くようになると責任感が生まれ、自分なりの楽しみを見つけられるようになる。そうすると、自発的に動くようになっていきます。
当社は2025年に創立70周年を迎え、この先100年企業を目指しています。このためには、次世代を担う30~40代の社員をどのように成長させていくかが重要です。現経営幹部として、彼らをしっかり支えていきたいと考えています。

―これらの取組は、御社が掲げる「四方よし」――近江商人の「三方よし」に「次世代よし」を加えた考え方――を体現するものですね。本市の仙台「四方よし」企業制度とも通じる考え方だと感じます。
働き手や働き方の多様化に対して、企業はどのように対応していくべきなのでしょうか。
鈴木代表取締役社長/少子高齢化の影響により、多様な働き方を整備することは会社の存続に不可欠です。これは、単なる労働環境の改善だけでなく、産学連携や地域連携を活用したイノベーション促進、社員のリスキリングを通じた能力開発によって実現されます。介護や育児といったライフステージの変化に対応し、DXやGXといった世界の潮流を取り入れながら、働き方を柔軟に変えていく必要があります。
私は5代目経営者ですが、会社はそれぞれの時代において変化しながら成り立ってきたことを意識しています。企業価値や従業員のエンゲージメント向上のため、ウェルビーイングの実現も重要なテーマです。この時代において、さまざまな苦労を抱える社員一人ひとりを理解しながら、デジタル技術やSDGsの視点も踏まえ、社員の安心感とやりがいを追求した経営を進めていきたいと考えています。これまでの当社の歴史を肌で感じながら、その歴史を未来に向けてどうつないでいくか――これこそが、新たな時代の経営者がやるべきことだと考えています。
企業情報
株式会社日吉 鈴木正 代表取締役社長・黄俊卿 海外企画室室長・大角浩子 総務部次長
| 業種 | その他の業種
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|---|---|
| 住所 | 滋賀県近江八幡市北之庄町908 |
| TEL | 0748-32-5111 |
| HP |
キーワード: その他の業種 事業拡大 人材 ダイバーシティ経営 職場環境の整備