1958年大阪で創業、プラスチック製品の下請け加工から始まり、自社ブランドを擁するメーカーへと業態転換。1989年、本拠地を政令指定都市となって間もない仙台に移転。「片付けの概念を変えた」といわれるクリア収納ケース発売や、製造メーカーと問屋機能を併せ持つ「メーカーベンダー」の仕組みの確立など、画期的なアイデアで次々とヒット製品を生み出し、現在では、グループ全体の売上高7,540億円(2023年度)、従業員数6,290名(2024年1月時点)、生活用品業界国内最大手へ成長。
創業者の大山健太郎会長から2018年に経営のバトンを受け取った大山晃弘代表取締役社長(以下、大山社長)は、食品、ヘルスケア、ロボット事業など幅広い分野にも事業展開し、躍進を続けています。
カリスマ経営者から経営のバトンを託された大山社長に、今後の成長戦略をお聞きしました。
(以下、聞き手は小泉代表)
小泉-本日は、国内主要拠点である角田I.T.P(1992年完成)に伺いましたが、御社のメインオフィスは仙台に置かれています。日本を始め、アジア、欧米地域に、関連会社含め37工場を構えている御社として、仙台・宮城を主要拠点としている理由をお聞かせください。
大山社長-仙台・宮城を大切にしている原点は、私たちの来歴にあります。1960年代、当社がメーカーとして独り立ちした最初のヒット商品は養殖用ブイ、続いて育苗箱。先代の大山会長のアイデアです。漁業・農業が盛んな東日本からのご注文が多く、マーケットの近くに生産拠点を、ということで1972年宮城県の大河原に工場を新設しました。
当時は、東日本の大動脈=東北自動車道が北へと延伸していた時代であり、物流網の拡張が見込まれており、交通途絶の懸念が少ない点も、立地選定の大きなポイントでしたが、まだ無名メーカーであった私たちの商品の最初期のユーザーは、ここ東北地域の方々です。この地を主要拠点としているのは、地域に助けられ、育てていただいたという感謝の念があるからです。
小泉-私は東京を拠点としていますが、仕事で仙台と行き来する機会も多く、移動にかかる時間は短いといつも感じます。
大山社長-新幹線で東京-仙台間が最短90分で結ばれる現在、時間距離として東京は 遠い存在ではなく、情報のキャッチアップに関しては、IT技術の進展により、物理的な立地はもはや問題ではありません。むしろ、教育機関の集積する学都・仙台として、人材確保の面で優位性があると感じています。
小泉-御社は、東北エリアの就職企業人気ランキングで5年連続して第1位(『マイナビ・日経 大学生就職企業人気ランキング』2021年卒~2025年卒)です。多様な価値観を持つZ世代を惹きつけられている要因はどのように分析されていますか。
大山社長-若い世代の方々は、当社の商品に馴染みのある生活環境で成長されてきた消費者世代ということも関係しているかもしれませんが、当社では、年齢・性別・キャリアなどにかかわらず、能力や適性に対し公正で透明性のある評価を行い、能力と意欲のある人材を積極的に登用しています。最近では執行役員に30代社員を抜てきしたように、若手が会社の中枢で、自分の力を発揮できるチャレンジングでダイナミックな風土と、求職者に評価されていると分析しています。
小泉-御社の企業スローガン『アイ ラブ アイデア』は、テレビCMなどを通じて、広く認知されていますね。年間1,000を超える新商品を開発されているとのことですが、そのアイデアはどこから生まれているのでしょうか。
大山社長-最初のヒット商品養殖用ブイに源を発する発明や開発への情熱こそが「アイリスDNA」です。自由闊達な発想をカタチにする最前線が、「新商品開発会議」、通称プレゼン会議です。
小泉-その会議が、ここ角田I.T.P.で毎週開催されているとお聞きしました。
大山社長-そうです。当社が開発する新商品は、全て毎週開催しているこの会議から生まれています。「アイリスDNA」である常に生活者目線で、アイデアの種を見つけること。それを消費者の「今」に寄り添うスピード感で実現することが何よりも大切です。特に、商品化に際して、開発・設計から生産・品質管理…とバトンを渡していくリレー形式ではなく、開発、生産、知的財産、品質管理、営業の関連各部署が情報を共有し、同時進行で進める『伴走方式』が当社の強みです。それを担保するのがプレゼン会議なのです。
小泉-東日本大震災以降は食品事業に参入し、現在は御社の主要事業の一つになっていますね。
大山社長-そうですね。特に、飲料水やコメは、食料安全保障の観点からも今後重要になってくると考えています。実際、今年(2024年)は、「令和の米騒動」ともいわれる米不足と価格高騰に見舞われましたが、当社では以前から米の生産と調達は地元仙台の「㈱舞台ファーム」と連携し、低温貯蔵・精米やパックごはんの製造に力を入れ、中核である角田工場において多くの工程を自動化し、安定供給に努めています。
小泉-企業はステークホルダーへの責任だけではなく、企業活動を通じて社会貢献を担う存在でもあります。CSR(企業の社会的責任)についてはどのようにお考えですか。
大山社長-日本は世界に例のない少子高齢化社会を迎え、市場の縮小、労働力不足などの課題はさらに深刻化していくと考えられますが、私たちは、自社の強みであるアイデアや技術で新しい価値を生み出していくことで、課題を解決し、さらには社会を変えていく『ジャパンソリューション』を理念に掲げています。変わりゆく人、社会、未来を先読みする『変化対応業』として、次代を見据えた企業戦略を実行していくことが、社会貢献につながっていくと考えています。
小泉-アイリスオーヤマのLED照明といえば、まさに私たちの暮らしを変え、脱炭素社会に対応した貴社を象徴する商品ですね。
大山社長-LEDは、かつて脱炭素社会実現に向けた重要なツールとされながら、一般消費者が手に取りやすい価格とは言い難い“高嶺の花”でした。当社が開発した低価格帯の商品により、2010年代からの急速な普及が進んだように、社会を変えていくソリューションを提供できたのではないでしょうか。変化対応企業として、現在当社のジャパンソリューションの最前線に位置づけているのは、ロボットで、私たちはその社会実装を推し進めています。
小泉-最近(2024年10月)の報道で、2024年度上半期の倒産件数が 10年ぶりに5000件台に達し、その背景には深刻な人手不足があると伝えられました。
大山社長-ロボットは、労働力不足に対応したソリューションの一つと成り得ます。当社では優れた技術開発力を持つ大学発ロボットスタートアップグループに迎え入れ、ユーザーに寄り添う製品をお届けしています。また、お客さまから「以前ロボットを導入したものの、メンテナンスが煩雑でだんだん使わなくなった」という声を受け、導入から運用、保守までをワンストップで行うカスタマーサポート体制も構築しています。
小泉-こうした新事業には、大山健太郎会長から事業継承された後に積極的に展開されているようにお見受けしました。大山会長というカリスマ経営から、現在の経営体制はどのように変化しているのでしょうか。
大山社長-大山会長の事業への情熱、経営センスなどは、唯一無二のもので、私だけでそれを担うことは考えていません。しかし、時代とともに、事業領域を拡大してきた当社では、現在、関連会社を含め国内外37工場を展開しています。生活用品以外にも、食料品の生産・製造から国内外での販売など、幅広い事業領域において変化の速い環境に応じ速やかに行動していくために、現在当社では、チーム経営で対応しています。それぞれの事業領域で優秀な人材が育っていますので、先代が築いてくれた企業理念や組織文化、特に、『アイ ラブ アイデア』に象徴される柔軟性と創造力を大切に引き継いでいきたいと考えています。
小泉-最後に、御社の今後の成長戦略についてお聞かせください。
大山社長-「目標売上高1兆円」を掲げています。これは、不確実な経営環境、マーケットにあって、当社が向かうべき方向を示しています。生活用品、LED照明、ロボット、そして食料品分野には、まだまだ伸びしろがあります。こうした幅広い事業領域の中で、チーム経営で力を合わせて大きな目標を達成していこうというメッセージを込めて掲げています。
現代は、不確かなことや複雑な状況が多く、社会やビジネス環境が予測しづらい時代といわれます。私たちは『アイ ラブ アイデア』に象徴される柔軟かつ創造的なアプローチをもって、挑戦を続け、社会に貢献できる企業であり続けたいと思っています。
小泉-これからも多彩なアイデアで、社会と豊かな未来を架橋してくださることと思います。本日は、お忙しい中、ありがとうございました。
企業情報
アイリスオーヤマ株式会社
業種 | 卸売業・小売業
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資本金 | 1億円 |
従業員 | 6,290名(2024年1月時点) |
住所 | 宮城県仙台市青葉区五橋2-12-1 |
TEL | 0123-456-7890 |
HP |