1975年、仙台市に編入前の泉市は、塩竃市の人口を抜き、県内第2のまちになりました。同年、住宅の建売販売会社として創業したのが株式会社山一地所。不動産売買、賃貸仲介・管理を始め、建築、リフォーム、相続支援など幅広い事業領域を有し、「不動産のトータルコーディネート企業」として地域密着型のサービスを展開してきました。 顧客第一主義の下、右肩上がりの業績を維持し、今では管理戸数約1万4100戸、従業員156名(2024年7月1日時点)にまで成長しました。
陣頭指揮を執るのが、2代目渡部洋平社長。人口減、マーケットの縮小、住まいに対するニーズの多様化、競合の台頭…厳しい経営環境に立ち向かいます。
―仙台市地下鉄南北線の富沢駅-八乙女駅間が開業したのは1987年、泉中央駅までの延伸は1992年なので、起業された1975年の泉地区は緑豊かな田畑の広がる地域だったようです。ここを創業の地とされた理由は?
もとは父(代表取締役会長 渡部志朗氏)が、親族経営の会社の清算・閉鎖のために泉に赴いたことがきっかけです。そのとき父は、「ここは将来的に伸びる可能性を持っている地域だ」と強く感じたようで、独立独歩で不動産業を始めました。資金面などでは相当な苦労があったと思います。
―2006年に入社、2010年に事業を承継されました。経営に際してご自身のカラー、スタイルをどのように反映してこられましたか。
当初、父の存在をかなり意識していました。父は独特の商才、嗅覚、ビジネスセンスの持ち主で、私には到底かなわないなと思うことがよくあります。一緒に仕事をしていて歯が立たないと思うことがある反面、ここに関しては私のほうが長けているのでは、と自己分析できる箇所もあります。偉大な存在を「超えなくてもいいのだ」と思えた時が、事業承継のターニングポイントだったように思います。
私は、社員一人ひとりの専門性や得意分野を引き出して活かし、チーム全体で事業を展開する経営スタイルを目指しています。そのため社員の自律や創意工夫を促すエンパワーメントが、私の重要な役割だと考えています。
また、会社のビジョン、ミッション、バリュー、パーパスなどの再構築にも社員とともに取り組みました。地域に育てられた企業として、私たち山一地所は「人と豊かさ」をつなぐ存在でありたいと願っています。
―更なる成長に向け、御社で取り組んでいることは何でしょうか?
飛躍のために解決しなければならないことは、「マネジメントクラスの人材育成」と「CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)の構築」の二つです。
管理職の育成に関しては、当社ではこれまで人材教育の柱として「人としての成長を支援すること」を掲げており、お客様との関係性を大切にする企業文化が育まれてきました。しかし、新任マネージャー、中間管理職、上級マネージャー…と階層的な研修はなされてこなかった。これは大きな反省です。会社を支える人材の世代交代も視野に入れ、幹部人材の育成に注力しなければならないと考えています。
顧客情報も、営業担当者が抱え込む属人的な部分が多くあります。お客様の情報を全社横断的に共有する仕組みがあれば、——例えば賃貸物件の設備の更新やトレンドを取り入れたリノベーションなど——オーナー様へ様々な角度からの助言、またライフステージ別の価値をご提案できるはずです。
―「令和6年度仙台市地域中核企業輩出集中支援事業」へのエントリーは、社員さんからの発意だと伺いました。
ゴールデンウィーク明けでしたか、総務部の社員から新聞の切り抜きを渡され、「これはいかがでしょうか」と打診がありました。それは本事業の募集を知らせる記事でした。
当社は何と言っても営業が花形、総務はバック部門です。私は総務部長も兼ねており、社員には常に「攻めの総務」と言っていたのですが、それを体現するかのような主体性と意欲を感じ、とてもうれしかったです。私としても、仙台市の初めての事業で1期目であるということ、包括的な支援であるという点に興味をひかれました。さらに、これまで当社は行政との連携が弱かったという反省もあり、「住」の側面から、地域の課題とどう向き合っていけばよいのか、情報交換ができたらと考えました。
申請締め切りまでおよそ2週間とあまり時間がなかったのですが、社員たちは「やります」と請け負ってくれました。提出書類を練る過程で、当社の現状分析、課題抽出、ブランディングの再定義を行うことができました。仮に選ばれなかったとしても、非常に価値のある取り組み、挑戦だったと思います。
―本事業での支援の現在地を教えてください。
先ほどお話した二つの経営課題に関して、今まさに伴走支援(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社によるコンサルティング)を受けており、現状分析や社員へのヒアリングに取り組んでいただいています。しがらみやバイアスにとらわれずに、外部からの客観的な視点で、組織内の課題や改善点を発見していただけるものと期待していますし、私たちも勉強しながらベストプラクティスを導き出し、社内に実装していきたいと考えています。
―前言の二つの課題の他に、進行形で取り組まれていることはありますか。
不動産業界、特に賃貸業界では繁忙期(1月~3月)と閑散期の差が大きく、弊社ではこれまで閑散期に合わせたマンパワーで繁忙期の大量の仕事をこなしていくという人材マネジメントが行われてきました。私はこの状況を社員の健康や福祉の観点において喫緊の課題だと感じていました。
「働き方改革」が唱えられる前ではありましたが、2016年から様々な手法を検討して時間外労働時間の削減に着手しました。まだまだ削減の途上ではありますが、今後も生産性の向上を図り、向き合っていきたいと思います。
このような「働き方改革」だけでなく、「安心して子どもを産み育てられる会社づくり」もこれからの企業に課せられるものだと思います。当社では、出産手当を手厚くし、産休育休を取得しやすい職場環境を整えています。今後も、子育てや介護などを抱えていても、安心して仕事を続けられるように支援していきます。
また、地域に雇用を創出していくことも私たち地域企業の使命だと考えています。新卒採用のほか、U、I、Jターンの人材も積極的に受け入れられるよう成長を続けていきたいですね。
―最後に、社長が描く御社の未来像を教えてください。
会社の今後を描くための「未来創造委員会」を立ち上げ、そのメンバーたちが中期経営計画の策定を進めています。会社の未来像は、私がトップダウンで示すものではなく、社員たちで描いてほしいと願ったからです。社員たちが自由に意見交換をすることで当事者意識を持ち、自分たちの手でよりよい会社をつくってほしいと思います。
一つのゴールとしては「2030年、グループ企業10社、売上高100億円」を掲げています。2023年6月期の売上高は前年比1.5倍以上に伸ばすことができたので、不可能な数字ではないと思っています。ただ不動産業は、景気動向、都市計画、企業誘致、人口動態などの外部要因に強く影響される業界でもあるので、真摯に努力を続けていきます。一方で、自社の成長だけではなく、地域の発展も私たち山一地所が強く望んでいることです。文化、スポーツ、祭りなどの地域の盛り上げには、できる限り協力しています。スポンサー広告やパートナーロゴを目にしていただく機会もあるのではないでしょうか。
泉・仙台という地域に育てられ、地域とともに歩んできた企業として、一緒に豊かな未来の地平を目指していきたい。『ひとしき人へ。ひとしさを人に。』——これが私たちの揺るぎのない信念です。
企業情報
株式会社山一地所
業種 | 不動産業・建設業
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住所 | 宮城県仙台市泉区泉中央2-13-3 |
TEL | 022-373-0001(代表) |
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